一番の問題は「iPhone専用のインフラに小売店がどこまで投資するのか」という点だ。手数料を嫌ってクレジットカード導入さえためらう小売店がいるなか、Appleの決済システムを進んで導入するのは相当テクノロジーに理解があって先進的なところだろう。大規模な小売店チェーンが同システム導入のためにPOS改修や大量の導入コストを投下するのかというところも難しい。いくつかの小売り関係者に話を聞いているが、iBeaconのような位置情報を使ったマーケティングやWi-Fiを組み合わせた決済の仕組みを検討したとしても、予算が限られているために現状は見送っているケースが多く、さらにPOSのような装置は更新サイクルもあり、すぐに導入できるものでもないとの指摘が多かった。

Appleでは中抜き業者が少なくなることで「決済手数料が安価になる」という点をセールスポイントにする可能性がある。実際、同じ理由でStarbucksが全米でSquareのシステムを導入したが、これはかなり希有なケースだと思われる。実際のところ、ローンチパートナー数社を獲得したとしても、そこから先に拡大していくのは難しいというのが筆者の見解だ。

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Touch IDやA7で搭載されたセキュリティ情報を記録するチップの存在など、Appleがモバイルペイメントの世界に参入する布石はすでに打たれているが、実際にはかなり高いハードルが存在していると考えている。注目を受けながらもSquareやPayPal Hereのようなサービスが苦戦しているように、既存インフラが長年築いてきたものを一朝一夕で越えるのは容易ではないだろう。いずれにせよ、もしゴーサインが出て今秋にサービスの正式発表が行われた場合、その経過を観察するのが重要だと考える。