Appleの決済サービス構築が難しいと思う理由

GoogleとSamsungの場合、すでに存在する「NFCを使った非接触通信決済インフラ」を利用する前段階(対応アプリやサービスの用意)でつまづいたわけだが、Appleの場合はNFCを使わないため「決済インフラそのものを自前で構築する」ことになるだろう。

つまり、クレジットカードが決済ネットワークやらアクワイアラやらを組み合わせて構築している決済インフラをほぼすべて無視して、クレジットカード会社と顧客(この場合は小売店も含む)をダイレクトに結ぶ唯一の中間業者をAppleが目指すということを意味する。Apple Insiderも触れているが、こうした従来の決済処理チェーンをすべてバイパスするのが同社の目的の1つだというわけだ。

最近になり、アクワイアラのような中間業者は新興の「モバイルペイメント」事業者の攻勢に非常に警戒心を抱いている。従来までは必死で加盟店を募集して小売店らで構成される決済ネットワークを構築してきたわけで、それがPayPal、Amazon.com、Googleといった事業者がネット決済を経由して顧客とオンライン小売店、カード会社を直接結びつけるようになった。これがリアル店舗を持つ小売店側の悩みともなっており、最近の「O2O (Online to Offline)」のような取り組みに結びついている。Appleが目指すのはPayPalのような業態であり、おそらくは従来のApple Storeでの購入だけでなく、同じような仕組みを他の小売店舗にも拡大していくのが狙いだと考えられる。実際、AppleはiTunesサービスでのクレジットカード登録数が8億を突破しているとのことで、これをそのまま決済に持ち込むのは既存事業者にとってかなりのインパクトなのは確かだ。

一方で、実際の小売店でどのようにユーザーにiPhoneを使って決済を行わせるのかは大きな課題だ。NFCや既存のクレジットカード決済ネットワークを使わないということは、「iPhoneで決済可能なインフラをApple自らが小売店に用意する必要がある」というわけで、これは非常に大きな労力や困難を伴う。代表的なものはPayPal HereやSquareの顔パス認証だが、これは専用アプリを導入したスマートフォンを持って店舗に来店すると、店舗のPOS画面に買い物をする人物の顔写真が表示され、これを確認することでクレジットカードの提示や現金支払いなどをいっさいせずに、注文した商品をその場で受け取れる。AppleはiBeacon技術を持っているので、こうした位置情報と組み合わせた支払いシステムの構築は可能だろう。実際、AppleがオリジナルブランドのiBeacon装置提供を考えているというニュースも出ているので、それ自体はそれほど難しい話ではないと思われる。