樫尾俊雄発明記念館の「進化の部屋」に展示されている代表的なものには、1965年に発売した電子式卓上計算機「001」などがある。「001」は、加減算の速度が0.01秒であったこと、電子時代の「0地点」からのスタートということから命名。電卓としては初めて記憶装置を搭載したこと、7桁の定数をダイヤルセットしておくことができるという特徴があった。価格は38万円だった。

1967年には、世界初のソフトウェア電卓「AL-1000」を発売。パッチボードと呼ばれていたハードウェアで作られていたプログラムをソフト化し、一連の命令をキーボードで簡単に記憶装置に入力できるようにしたもので、大幅な小型化を実現。32万8,000円という価格で販売した。

「進化の部屋」に展示されている「001」。初めて記憶装置を備えた電卓

プログラムをソフトウェア化したAL-1000

そして大きなマイルストーンが、1972年に発売したカシオミニだ。1万2,800円という価格設定もあり、発売10カ月で100万台を販売。シリーズ累計600万台を売り上げるヒット商品となり、一課に一台といわれた電卓を、一家に一台、一人に一台の時代へと進化させた。カシオミニの開発には、樫尾幸雄副社長も深く関与している。

■カシオ副社長に聞く - 電卓の歴史を変えた「カシオミニ」、そして脈々と息づくカシオのDNAとは…
■カシオ計算機の原点 - 半世紀を超える「計算機」の歴史旅行へ

シリーズ合計600万台を販売したカシオミニ

カシオミニの1万2,800円という価格は発表当日に俊雄氏と和雄氏が決めたという

複合機能を持つ世界初の電子クロック「でんクロ」。価格は1万4,000円

名刺サイズの電卓である「LC-78」。3.9mmの薄さを実現。1978年の発売だ

0.8mmという圧倒的な薄さを持つSL-800。カシオの最先端高密度実装技術を活用した

難解な数式も一目で理解できるグラフ表示関数電卓「fx-7000G」

「指輪パイプ」。カシオ計算機の土台を築いた製品だ

さて、カシオ計算機設立以前に俊雄氏が開発した製品のなかで、ユニークなものに「指輪パイプ」がある。開発した当時、貴重品であったタバコを根元まで吸える機能が注目を集め、飛ぶように売れたヒット商品だ。

中指にはめるリングは、黄銅製でクロムメッキが施してあり、パイプの角度は、タバコの火が指に当たらないように45度にしてある。長男である忠雄氏が、旋盤とバーナーを使って、手作業で一日200~300個を生産。父の茂氏が、本社のあった三鷹から都心方向に向けて売り歩いたという逸話がある。