―そのほかに、英語を学ぶ上で大切なことは何でしょうか?

ショーンK: まず、ネイティブのような流ちょうな英語は必要ありません。英語が第二言語である日本人にネイティブのような英語力は誰も期待していません。

ニューヨークの街のど真ん中で、英会話のテープから流れてくるような英語を探す方が難しいはずです。むしろ「自分は日本人だから、日本語なまりの英語でいいじゃないか」という姿勢で、英語を話していくことが大事だと思います。英語をいかに美しく流ちょうに話すか(HOW)ではなく何を話すのか(WHAT)が最も重要です。

中国人は、中国語なまりを直そうとも思っていないです。◯◯なまりの英語を聞いて、日本人は笑うけれども、伝われば発音の美しさなんて必要ないです。その点、日本人は文法や発音に間違いのないネイティブ(これも誰をもってネイティブか?という問題もありますが)のような英語を話そうとして、また文法や発音の間違った英語を話す事をリスクだと思って、リスクをとらない。

つまり英語を話せない、のではなく「話さない」という事になっているのではないでしょうか。間違った英語を話すリスクと何も言わないリスクは比べ物にならないほど、「何も言わないリスク」の方が大きいのです。

また、あらゆる交渉事に重要な考え方は、前述の値段交渉にも通じるところですが「AかBのどちらかが正しい」ではなく、「AとBを切磋琢磨させてCという新しい回答を得ていく」考え方が大事です。

AとBの「互換性」、これを英語で「compatibility」と言います。互いに相性(chemistry)のいい相手を世界中探し回る時間より、互いに違う価値観を擦り合わせて新しい価値観を創(つく)り上げる時間の方が効率的だし生産的だと思います。

「あっちの論理」か「こっちの論理」のどっちを採用するか、あるいは「こっちの論理」を通すために「あっち」をどう論破するために時間と労力を注ぐ、あるいは、仕方なく「あっちの論理」を受け入れてしまうのか、という物事の進め方は時代にあっていないのかもしれません。

深いコミュニケーションを通じて「あっち」でもない「こっち」でもない「『ここ』の論理」を一緒に創る。それを創(つく)り上げるイニシアティブを「こっち」で引き受けることが交渉の現場では大事です。

身近なところで言えば、日本の文化や商慣習も、外国人相手に堂々とやればいい。

例えば、日本人にとって「名刺」は非常に大事なものですよね。丁寧に渡すし、もらった後も丁寧に扱う。名刺を交換する時はお辞儀をする事もある。そういう事は、海外であえてやって、外国人に教えてあげればいいと思います。日本語の「○○さん」という呼び方も同様です。

外国人は、日本の「さん」がエキゾチックで好きだという人が多い。不思議な事に「さん」付けで話をする時、相手(外国人)も「アウェイ感」を感じていて、こちらの論理を理解しやすい心理状態になっている事が多いのです。

逆に上司も取引先もファースト・ネームで呼び合う「アメリカ英語のルール」というアウェイ戦では日本人は弱いような気がします。ある会社の社長は外国企業と重要な最終交渉に入る時に必ず先方の社長を京都の小さなお寺さんの茶室に連れて行っておられました。不思議な事に優位に交渉が進むというのです。

セリエA・インテルナツィオナーレ・ミラノ所属の長友佑都選手がゴールを決めた後にお辞儀をしますね。ほかの選手も一緒になって。あれも、彼がプレー以外で自分のアイデンティティープレゼンスを高めていくためには素晴らしい方法だと思います。

あるいは、英語がうまく話せなくても、「ネイティブではないのだから、英語がうまくなくてもしょうがない」くらいの姿勢で良いと思います。完ぺきな英語は誰も求めていないです。大事なのは「相手に伝えようとする意志」とその「内容」です。

●お話を伺った方

ショーン・マクアードル川上(ショーンK)氏

経営戦略コンサルタント。さまざまな事業領域における外資系、日系企業の経営戦略、経営再建、事業開発、戦略提携(M&Aなど)、グローバル経営などへの助言、支援を行うブラッドストーン・マネジメント・イニシアチブ代表取締役。現在、東京、ニューヨーク、パリ、シンガポールなど7都市を拠点に経営コンサルタントとして活躍。ベンチャー育成、創業支援、ビジネスリーダーのためのスキル開発トレーニングなどの活動にも従事。また、執筆、ラジオ、テレビのパーソナリティ、コメンテーターなどマルチな活動を展開中。主な著書に「プロフェッショナルの5条件(朝日新聞出版)」、「MBA講義生中継 経営戦略(TAC出版)」、「自分力を鍛える(あさ出版)」、「即聴⇔即答ビジネストレーニング(アルク)」などがある。

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