本家SIGGRAPHと同様、SIGGRAPH ASIAにおいてもEMERGING TECHNOLOGIESの展示会は行われる。
EMERGING TECHNOLOGIES展示セクションはSIGGRAPHの取り扱うテーマの「コンピュータグラフィックスとインタラクティブテクニック」のうち、主に後者にスポットをあてたものであり、主にバーチャルリアリティやハプティックス(触覚学)などに関連した展示が多い。
短期的に製品化を目指した技術展示もなくはないが、将来の実用化を見据えた基礎研究であったり、新しい技術テーマそのものの展示が多く、EMERGING TECHNOLOGIES展示セクションはいわばミニ万博といった風情になっている。
NETWORKED DOME THEATER~4K2Kプロジェクタ×ドームシアターで見る皆既日食の瞬間
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)とビクターは、直径9メートルのドーム型スクリーンに2009年7月22日に起こった皆既日食の様子を全天周投射する体験型デモンストレーションを行っていた。
皆既日食の映像はビクターと和歌山大学で共同開発した190度魚眼レンズを装着した、ビクターの「4K2K 60P 単板カメラ」(2009年5月発表)を用いて奄美大島で撮影されたもの。上映に用いられたプロジェクタは4,096×2,400ドットの解像度を誇るビクター製の業務用D-ILAプロジェクタ「DLA-SH4K」(2007年11月発売)。これに魚眼レンズを装着し、皆既日食のときの空の模様を全天周映像としてドーム内壁スクリーンに投射して再現。
通常のカメラで撮影された四角形のフレームで切り取られた矩形映像とは違い、皆既日食に突入するまでの空模様の変化が全方位映像として観察できる臨場感は圧巻。完全に皆既日食に突入すると空が暗くなるだけでなく地平線の低い位置に赤黒い夕焼け空が見えるのも印象的であった。
一般に魚眼レンズでの投射は光束密度が低くなる関係で輝度低下が著しくなるが、この傾向は今回の展示でも否めず。DLA-SH4Kは3,500ルーメン程度なので、もう少し輝度アップしないと、こうした用途にはつらいと思われた。
さて、担当者によれば、今回の展示は、映像だけでなく、ドーム型スクリーンシステムにおける音響効果のデモンストレーションも兼ねていたとのこと。
ドーム型スクリーンではスピーカーを表示面となるドーム面に実装できず、しかも常設でないエアドームでは壁面の裏側にスピーカーを仕込むことも出来ない。かといって地上面にスピーカーを設置して視聴者に向けてしまうと音像は地表で定位してしまい、ドーム面に定位できない。そこで、ビクターとKMDでは地表面に設置したスピーカーをドーム面に向けて照射してドーム面に音を定位させる新しい音響技術の開発を行っており、今回の展示ではその評価実験も兼ねていた。
まだ技術開発中なので詳細についての言及は避けられたが、視聴者席をドーム後方に配置したケースでは、視聴者から見て左右に音波を拡散するような指向性の弱いスピーカーをドーム面に仰向けて設置し、同様に前面側には指向性の強いスピーカーを設置するレイアウトが自然に聞こえるという。さらにナレーション用のスピーカーはドームに定位させないため、あえてプロジェクタ近辺の中央にセンタースピーカーとして設置している。