工学者として目指す教育

いよいよトークショーの残り時間も少なくなり、話はまとめへ。一般に"科学技術"と言うが、その間にある"工学"がほとんど世間に知られていないと水川氏は指摘する。

「科学者、工学者、技術者、この違いもあまり意識されていない。体系化してモノ作りのシステムを作るのが、工学者。そのための言語や原理を研究するのが、科学者。問題を解決するために工学知識を用いて具体的な仕事をするのが技術者」

さらに、職人の持つ文字にし難い経験や優れた技も、なんとか工学にして技術にすることが求められている、と水川氏は語った。そのためにも、ロボット教育を中心としたコミュニティは有用だと言う。

「ロボット/メカトロ教育には、さまざまな知識やスキルが要る。そのために、分かりやすく教えやすい教材が必要。世代間、学年間の協働の場を作り、その中から指導者を育成していくことも大事。こうしたコミュニティの中で、オーガナイズする人、指導者、開発者、それぞれがうまくかみあって様々な関係ができる。そうすれば、一般的な社会常識として科学技術に対する理解と知識を持った人が増え、単なるユーザーではない市民が作れるのではないか。これからもそういった場を提供していきたい」

ロボット/メカトロ教育のサイクル

"まとめ"……夢を形にするのがエンジニアの仕事。そのために大学で教えるべきこと

最後に水川氏は、芝浦工大校歌の歌詞にある「精緻を究めて事につかば」、ロールスロイスの創業者フレデリック・ヘンリー・ロイスの「いかにささやかなりとも最善を尽くした仕事は全て尊い」という2つの言葉を紹介。「これぞエンジニアの心意気。こういったことが分かる人材を育てていきたい」と語り、トークショーを締めくくった。

北原白秋作詞の芝浦工大校歌

ロイスの言葉「いかにささやかなりとも最善を尽くした仕事は全て尊い」

ロボットセミナー継続の宣言を掲げ、トークショーは終了した

取材の時期は前後するが、水川氏の話は、やはり教育を主眼とした「ETロボコン」の本部取材で聞いた話と重なる部分が非常に多かったように思う。技術教育には実体を通じた経験知が不可欠、という意識は広く定着しているようだ。こうした地道な教育の取り組みが、やがて目ざましい成果として実を結ぶことに期待したい。