この大ヒット作を仕掛けたチャールズ・ローヴン氏(右)とエマ・トーマス氏(左)

バットマン・シリーズの最新作『ダークナイト』が、8月9日に封切られた。前作『バットマン ビギンズ』(05年)では、リアルな描写にこだわるクリストファー・ノーラン監督を起用。低迷の末、長期間打ち切られていたバットマン映画の刷新に成功した。

その続編となる本作では、監督や、主演のクリスチャン・ベールなど主要なキャスト・スタッフは前作から引き継ぐものの、単なる続編の枠を超えた野心作となっている。タイトルから「バットマン」という看板ネームをあえて外し、コミックヒーロー映画としての枠を取り払って新たなドラマの境地に挑んだ。

その姿勢が大きく評価され、『ダークナイト』は、全米公開直後から爆発的な大ヒットを記録。その勢いは止まることなく、最終的にはハリウッド映画史上に残るヒット作となりそうだ。今回は、この大ヒット作を仕掛けた『ダークナイト』のプロデューサーお2人に、裏方の立場から作品について語っていただいた。

――『バットマン』シリーズは、当初のティム・バートンのファンタジックなシリーズ、その後にジョエル・シュマッカーの派手でキャンプなテイストのシリーズがありました。この時に人気が失速してしまいましたが、『バットマン ビギンズ』、『ダークナイト』ではバットマンというキャラクターはより大人向けに、よりダークになりましたね。

チャールズ・ローヴン「そもそも『バットマン ビギンズ』とこの『ダークナイト』の2作に関しては、これまでのシリーズとはまったく切り離された別の作品なんです。 最初から監督も、脚本家のデヴィッド・S・ゴイヤーも、私たちプロデューサーも、今までのシリーズを参照したり、意識した部分などは全くありませんでした。だから同じバットマンといっても、まったく違うシリーズなのです」

エマ・トーマス「クリス・ノーラン監督の過去の作品を観てもわかるように、彼はシリアスで、社会性の強い映画を撮る志向があります。バットマンとその周辺の世界をよりリアルに描写したいというのがノーラン監督の意向でした」

――今回の映画では特に、ティム・バートンの『バットマン』に登場したジャック・ニコルソンのジョーカーとはまったく違った、ヒース・レジャーの演じる過激なジョーカーが印象的です。彼はコミック的なヴィラン(悪役)というよりは、テロリストに近い描写になっていると感じました。

エマ・トーマス「『ダークナイト』で描写される世界は、私たちが住むリアルな世界を反映させたものになっています。当然、それぞれのキャラクターにもリアリティを持ち込んでいるわけです。ジョーカーというのは、現代の私たちの恐怖の対象を象徴しているキャラクターです。現実社会に住む人々が恐怖するのがテロリズムであるから、ジョーカーがそのように見えるということはあるかもしれませんね。何であるにせよ、彼は人々に恐怖を引き起こさせるキャラクターなのです。

チャールズ・ローヴン「実際はジョーカーはテロリストというより、アナーキストに近いと思いますね。世界に混乱をもたらすという目的で行動しているわけですから」

――『ダークナイト』は現在全米で大ヒット中ですが、その要因は何だと思いますか。

エマ・トーマス「『バットマン ビギンズ』のときは、前の映画シリーズからかなり時間がたっていましたし、また前のシリーズのためにバットマンに対してネガティブなイメージ(※)を持っていた観客層というのもいました。ですから、私たちの仕事は、バットマンをまた新しく紹介しなおすというところにあったんですね」

こちらのバットマン・ヒストリーを参照

「しかし『バットマン ビギンズ』はすでに映画やDVDで広く観ていただいたので、観る側にはもう土台ができあがっています。そこで『ダークナイト』では、新しい展開を観せることに集中できたということが、まずありました。また、素晴らしいキャストたち、中でもジョーカー役のヒース・レジャーの迫真の演技が絶賛されました。公開する前から、先に見た観客や批評家たちから、とても高い評価を受けることができたことで、公開後すぐに大きくヒットしたのだと思います」

チャールズ・ローヴン「『ダークナイト』はドラマ、アクション、バットポッドといったガジェットなどいろんな要素が盛り込まれていて、ティーン層から大人まで楽しめる映画になっていると思いますよ」

2人とも「プロデューサーは監督の意思をサポートするのが仕事」と口を揃える。大ヒット作の仕掛け人でありながらどこか控えめな態度。しかしきっぱりとした口調には、作品への自信が滲み出ていた。

動画

『ダークナイト』トレーラー映像

プロフィール

チャールズ・ローヴン(Charles Roven)

『バットマン ビギンズ』でプロデューサーに着任、引き続き『ダークナイト』でもプロデュースをつとめる。過去のプロデュース作にも『シティ・オブ・エンジェル』『12モンキーズ』などヒット作多数。今年2月、ShoWest2008にてプロデューサー・オブ・ザ・イヤーを受賞

エマ・トーマス(Emma Thomas)

クリストファー・ノーラン監督を夫に持ち、『インソムニア』『メメント』『プレステージ』等、監督が手がけたすべての映画でプロデューサーをつとめる。本作『ダークナイト』でも『バットマン ビギンズ』から引き続いてプロデュースを行なっている
インタビュー撮影:岩松喜平