8月9日からの全国ロードショーを前に、クリストファー・ノーラン監督、主演のクリスチャン・ベールをはじめとするスタッフ、キャストが7月下旬に来日した『ダークナイト』。

ベール扮するバットマンことブルース・ウェインの幼なじみで地方検事補のレイチェルを演じたマギー・ギレンホールに話を聞くことができた。この日は朝から分刻みのスケジュール。にもかかわらず、休憩時間もカットしながら、どんどん取材を受けているという。ムービーではなく、スチール撮影とインタビューのみと知ると、少しリラックスした表情になり、スタッフが差し入れたカット・フルーツをつまみながら、笑顔で取材はスタートした。

マキシ丈のドレスが似合っていた長身のマギー・ギレンホール

バットマンとジョーカーの対決という、はっきりとしたメイン・イベントが決まっている作品において、こんなにも確かな存在感を示すヒロインが登場したことは新鮮な驚きだった。『ダークナイト』のレイチェルは、既存のヒーロー映画にありがちなヒロイン(闘いのきっかけになったり、主役の強さを誇示するためのツール)ではない。登場人物の誰よりも、しっかりと自身と向き合う強い人間と言ってもいい。それは、ノーラン監督とアイデアを交換しながらキャラクターを作り上げていくという努力の賜物だった。

「といっても『ダークナイト』は大作。プロットも細かく決まっていたし、ほとんどのことは脚本上にすでに描かれていたので、一から作っていけるような自由はなかったわ。でも、クリス(・ノーラン監督)はとても協力的で、私の意見に耳を傾けてくれたの。私としてはレイチェルをリアルな女性にしたかった。自分というものをはっきり持っていて、頭が切れて、ちゃんと感情を持っている女性像として演じたいという気持ちは強かった。私にとって、そしてクリスにとっても、それは重要なことだったわ」

前作でブルースの元を去り、ハービーと良好な関係を築いているが…

「確かに、いわゆるヒーロー映画のヒロイン役だと、大してやることはないわね(笑)。その反動もあったわ。でも、実際に演じてみるまでは、こういうヒーローが主役の映画への出演を楽しめるとは思っていなかったの。ヒーローに救ってもらう女性を演じるということをね。強い女性像を目指しながら、こうやって救われるのも悪くないな、なんて思ってたわ。日本ではどうなのか、よく知らないけれど、アメリカでは、そういう女性のか弱さを見せてもいいんじゃない? という風潮が最近出て来ているのよ」

前作『バットマン ビギンズ』で幼なじみのブルースがバットマンであると知ったレイチェルは、バットマンを続ける限り、彼と一緒にいるのは不可能と決断、『ダークナイト』では正義感あふれる地方検事ハービー・デントの恋人として登場する。だが、ブルースは彼女への想いを断ち切れずにいる。そしてレイチェル自身、憎み合って別れたわけではないブルースへの愛情も失ってはいない。

強さの中にしっとりした女らしさも秘めている

「世の女性の大半はうらやむようなシチュエーションよね。男性は2人ともセクシーでヒロイック、力強い。レイチェルが苦しむのは、本当に2人を等しく愛しているから。相手を傷つけないように心を砕きながら、でも自分の気持ちにも嘘はつかない。2人の男性の間で揺れるけど、レイチェルは決して"苦悩の乙女"状態に浸るタイプではないの。私は彼女をそういう女性として演じたかった」

クリスチャン・ベールをはじめ、前作から続投というキャスト、スタッフの多い現場だったが、「いつもと同じように、新作の撮影現場に臨むという気分だったわ」と笑う。

「クリスとクリスチャン・ベールは何度も一緒に仕事をしているのよね。それにスタッフも。だから、誰もが仕事のやり方を心得ていて、すごく手際がよかった。私の演じた役には前任者(ケイティ・ホームズ)がいて、彼女は素敵な女優だと思っているけど、それでも私はレイチェルを全く新しい女性として演じようと考えたの。あまり意識し過ぎてもよくなかったと思うし」

これまで比較的低予算のインディペンデント映画への出演が多かったマギー。ブロックバスター作に参加して感じた最大の違いは?

「今感じてるところ(笑)。撮影中よりも、こうやって世界中を回りながらプロモーションをしている今ね。撮影中に私が経験したのは、いい役者といい脚本、素晴らしい監督との仕事。これは今まで私がやってきた他の作品と変わらない。そして、世界中を飛び回って、豪華なパーティやプレミアをやって、ゴージャスなドレスを着ることが出来て……という今の状態が本当に一番の違いよね。で、それはそれで全然悪くない(笑)、というか、楽しいわ」

実は『ダークナイト』は、パートナーで俳優のピーター・サースガードとの間に愛娘が誕生した直後の撮影だった。

「撮影開始時に娘は生後7カ月。終わった時に14カ月になってたわ。母親になって最初の映画出演作がこの作品でよかったと思ってる。撮影が長期間だったから、2、3日集中的に撮影したら2週間の休む、という風に、逆に休みをとりやすかったの」

今後しばらくは子育てを第一に考えながらも、女優を続けていくつもりだという。

「娘はもうすぐ2歳。今は私も普通に毎日撮影する仕事も出来るようになったわ。仕事で娘と離れるのは当然つらい。でも、彼女も母親以外の大人たちといることを楽しめるようになってきたの。いろいろな人たちと接することや、働く母親の姿を、ママとしての顔だけじゃない私を見ることで、彼女もよりいい人間になれると思うのよ」

朝早い取材だったが饒舌に語ってくれた

インタビュー撮影:岩松喜平