マルク・シャガールは、日本人がもっとも好む画家の一人だ。日本のどこかで常にシャガール展が開かれているといっても、決して過言ではない。生誕120年にあたる昨年は、とりわけ多くのシャガール展が日本各地で開催された。そのすべてを観た人に対してすら、今回のシャガール展は新たなシャガール像を発見させてくれる素晴らしい機会となるに違いない。

「私は本と絵画が異なるとは思わない。すべては私、シャガールによるものだから」、こう語ったシャガールは、絵画だけでなく言葉でも自らの人生や芸術を著す"語る画家"だった。前半生を綴った自伝的回想録『シャガール わが回想』をはじめ、世に認められた後もエッセーや詩、さらには講演、雑誌、新聞、ラジオ、テレビなどでのインタビューと、雄弁に自らを語った。それらの言葉は、シャガール芸術を読み解く重要な糸口だ。

前半生を振り返った自伝的回想録『わが回想』(MA VIE)は、1931年にパリで刊行された

言葉と絵画でシャガールの世界にふれる。一番右は「赤い家」(1926年)。そこで理髪師をしていた叔父の思い出を綴った文章も展示されている

「『シャガール 私の物語』Chagall:My Stories」展は、そうした画家自身が残した言葉と絵画を併せて紹介しようとする、これまでのシャガール展にはない試みで構成されている。豊かな色彩によって自らの物語を幻想的に語りつづけたシャガールの絵画が、自ら発した言葉と共鳴して、さらに深く雄弁に芸術家の深奥を私たちに見せてくれる。それはまさに一人の偉大な画家の喜びと悲哀に満ちた「物語」である。