参加者一同行程を確認したら、23.3kmの旅にいざスタート。いきなり気になったのが天井を走るパイプ。尋ねると「排水管」とのこと。青函トンネル掘削は水との戦いであり、大量の湧き水によって工事の続行が危ぶまれたことも何度かあったという。当時の国鉄は次々に新技術を開発してこれに立ち向かったが、トンネルが完成した後も湧き水との戦いは続いている。青函トンネルにおいて1分間に排水する湧き水の量はなんと20万トンにも上るという。
そんな話を聞いてすぐ、最初の里程標を発見。あと22.6km。先は長い。間もなく竜飛海底駅を過ぎ、作業坑に入る。作業坑は大きな鉄の扉でふさがれており、おどろおどろしい感じが漂う。
作業坑に入ってしばらくすると、電話があるのに気付く。携帯電話のつながらない海底トンネルにあって、なんとなく地上とつながっている感じが得られて少し安心する。ただし公衆電話ではなく、管理用の専用電話だそうだ。天井をふと見上げると、小さな鍾乳石が何本も垂れ下がっている。色といい大きさといいえのき茸のようだ。
さらに歩く。「竜飛下り横取基地」と書かれた場所に出た。線路が敷かれている。横取基地とは総延長53.85kmの青函トンネルを保守点検するための作業車を本線から支線に入れるための場所だ。横取基地から本坑の断面を見ることができる。本坑は高さ7.85m、幅9.7m。新幹線の走行を想定して作られている。
さて、寒いことに気付いた。事前に聞いていたのは「トンネル内は20℃、湿度80~90%」という情報だった。さぞかし暑いのだろうと思い半袖Tシャツ1枚で臨んだのだが、予想していたのと違った。結構風が強くて涼しいのだ。「毎分3,800立方メートルの風を送風しています」とのこと。風速1m/hとのことなのだが、歩いていると常に耳元で風を切る音がするほどで実感としては結構な風量だ。仕方なく上着を取り出して着込む。
歩いていると今まさにこんこんと水が湧き出している場所がある。おいしそうな感じだが、残念ながらこの湧き水は飲めない。成分のほとんどが海水なのだ。こうした湧き水はどんどん集められ、作業坑の横を流れていく。この水量は機器によって常時計測されている。光によって水深を計測し、異常に水量が増加していないかどうか監視しているのだという。「水量が異常に増えた場合は地震などによって壁が壊れたという要因が考えられるため」と説明があった。ただしこれまでの20年間でそうしたことは一度もないという。
水量の変化を通して地震の可能性を探るのも必要だが、地震そのものの観測も欠かせない。当然青函トンネル内にも地震計測器が設置されている。実際に計測器を見せてくれたが、特に何の変哲もない機械だった。
作業坑は本坑から30mしか離れていないため、時折列車が走っていく「ゴーッ」という音が大きく聞こえる。それにしても23.3kmの道のりは果てしない。かなり飽きかけた時、タイムカプセル埋め込み地点に出た。タイムカプセルには、工具などが埋められていて、開通100年後に取り出されることになっているそうだ。隣にはトンネルの地肌に触れることができる窓がある。実際に触れてみると少し濡れており、温泉のように赤いカルシウム分が何層にも重なっていることがわかる。この場所を過ぎて間もなく、およそ半分の地点に到達。これで半分かと信じられない気持ちになる。とにかく皆のペースが早く、ずっと歩き通しなのだ。そうは言っても、ここまで来て泣き言を言えるわけもなく、歩き続ける。
半分の地点を過ぎて間もなく、大きな機械群のある場所に出た。これは変圧器だという。トンネル内で電気は架線を通ってパンタグラフに行き、電車のモーターを回して線路に流れ、この変圧器に戻る。とにかく大きな機械でなんとなくすごさは伝わるが、見た感じあまりおもしろさが伝わるようなものではない。それでも、変化があると少しは気分が変わる。何しろトンネルの中はほとんど景色が変わらないのだ。
次に気分を変えてくれたのは、北海道と青森の中間点。ほどなくして貫通点にたどり着いた。この場所は青函トンネルで最初に北海道と青森がつながった地点だ。ここでやっと背中のリュックサックから携帯電話を取り出して時間を見た。11時30分。8時30分に歩き始めてから3時間が経過している。ここまで時計を見る余裕すらなかったというふがいなさ。土踏まずとふくらはぎが痛い。大体にして10kmも足で歩いたのは高校生の時以来だ。まだ先は長い。