日刊建設通信新聞社主催、オートデスク共催で、BIMの設計フェーズにおける意匠と構造の連携、施工フェーズにおけるプレファブ連携により、今後のBIM導入の可能性をひもとく「構造BIMセミナー 業務連携の深化〜設計・鉄骨FAB〜」を大阪・東京の2都市で開催した。ここでは、9月27日に東京・新宿のミライナタワー マイナビルームにて開催された同セミナーの様子をお伝えする。
同セミナーは、意匠設計、構造設計、設備設計、施工フェーズで利用できるBIMソフト「Revit」を中心に、連携する構造設計ツールやプレファブツール、それらの活用事例を紹介した。構造設計やプレファブにおけるBIM活用の促進を目指すという内容だ。
日建設計 構造設計グループの「Revit」活用と無償公開した「Structural BIM Design Tool」のご紹介
最初のセッションは、日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループの田原一徳氏による『日建構造での「Revit」活用と無償公開した「SBDT」のご紹介』と題されたセミナーだ。
同社が構造図をBIM化することで得られるメリットとして、伏図と軸図の不整合がなくなること、3次元でモノが見られること、構造躯体の概算数量が拾えること、そして構造計算データからBIMモデルのベースを生成することで作図が効率的になることを挙げた。とはいえ、BIMは過渡期であるため、構造のBIMモデルに最新の意匠図(CADデータ)をリンクさせて重ね図を作成しながら設計を進めているという。また、実施設計の最終段階では、構造図と意匠図の整合性、そして構造図と構造計算書との整合性をBIMでダブルチェックしているとのことだ。
次に、日建設計のBIM化の過程についての話へと移った。同社は2009年にBIMの利用を開始し、2012年にパイロットプロジェクトを決めて「Revit」で実施設計図を作成。2013年にはRevitを本格導入し、自社の一貫構造解析ソフトから「Revit」への変換プログラムを開発したほか、マニュアル製作や断面リスト作図プログラムを開発したという。そして2015年、構造設計グループでは基本的にすべての案件でBIMを利用する方針となり、2018年3月には構造BIM作図ツールのWeb公開に至ったという。
日建設計構造設計グループでは現在、実施設計のBIM化をほぼ100%達成しており、2009年にBIMを始めて以降、2018年には累計300件以上の実施設計図のBIM化を達成しているという。
BIMスタート時、社内では作図担当の技量も未熟なことから「CADの方が早い」「締め切り前のドタバタに対応できない」「BIMの図面は表現含め質が落ちる」、あるいはBIMのメリットが理解されておらず「意匠部門、設備部門がBIMにしないならCADで行こう」といった声が多くあがったという。
しかし、現在100%のBIM化を達成できた要因として、BIM専門の部を会社として組織化できたこと、構造設計グループではBIMモデルは作図担当が構築すること(設計とBIMデータモデリングとの分業・連携)、そして3Dセンター室(日建設計社内のBIM等デジタルツールの普及・教育を行う部署)の構造担当のメンバーが構造設計部門と兼務であること、すなわち構造設計者と作図担当とが視点を共有したり、問題点を共有できたことを挙げた。
加えて、「Revit」による構造図の作図マニュアルの作成や、BIM使用の際のルール、表現方法の統一、さらには、社内の構造設計者に向けて構造BIM講習会を開催したり、構造設計グループの技術会議でBIMの最新情報を発信した。構造設計グループで開発したソフトの利用サポートや設計者と作図担当の仲介、社内のBIMポータルサイト開設なども行ったということだ。
こうした取り組みを3〜4年続けたところ、設計者や作図担当もBIMへの理解が高まり、作図担当は技量が向上して表現密度が高くなるとともに人員も増え、設計者も作図スケジュールが立てやすくなり、新しい機能を利用する余裕が出てきたそうだ。しかし、田原氏は「日建構造のBIM化はまだまだ過渡期です。特に設計者と作図担当の協力がなければ、限られたスケジュールでBIMによる図面の制作は難しい」と述べた。
続いて、日建設計構造設計グループが3月に無償公開したWebサイト「SBDT」の紹介へと移った。SBDTとは「Structural BIM Design Tool」というWebサイトのことで、「Revit2017」のテンプレートやマニュアル、一貫構造計算ソフトからの変換ツールや断面リスト作図プログラムなどを無償でダウンロードできるという。また、同サイトを公開した主な理由は「将来必ず社会で利用されるBIMを早く浸透させたい」「同じ仕組みに参加する人を増やしたい」「建設業界の生産性の向上のため、設計BIMから施工BIMへのデータ伝達の効率化を図りたい」という3つだという。そのためにも「一社でルールを作り上げるのではなく、他の設計事務所の方や施工会社の方、その他多くの人の目を通してよりよいルールに変えていきたい」「毎年の仕様変更をフォローするのは一社だけでは限界がある」「ユーザー数が多くなればなるほど開発元であるAutodeskへの改善・開発要望の声が届きやすくなる」という思いを述べた。
また、田原氏からのお願いとして、「使い勝手の悪い点や改善してほしい点があれば是非連絡ください」「新しいファミリが必要な場合はご相談ください。汎用的なものは順次取り入れて公開していきます」「SBDTを利用したツールを開発・連携したいという方は是非連絡ください」という3つを訴え、最後に「一緒にいいものを作っていきましょう」と締めくくり、壇上をあとにした。