「Whole New World」、時代は民間宇宙開発へ

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    これから私たちは宇宙に行けるのか、質問はつきない

1時間強にわたり、駆け足でISSや宇宙船を見せてもらった後、矢野さんと私は様々な質問をスティーブさんたちにぶつけた。

なぜ、スペースXのクルードラゴン宇宙船はここJSCにないのですか?

「スペースXがそうすると決めたのです。彼らは設計も開発も製造もすべてカリフォルニア州の工場で行っています。そのため、何か問題が起きても早く解決できます。NASAはスペースXやボーイングに彼ら自身の宇宙船を開発するように促し、購入します。彼らはNASAに宇宙船を提供すると同時に、同じ宇宙船を作ってISSや宇宙ホテルにビジネスとして打ち上げるでしょう」(スティーブさん)

「つまり、オライオンはNASAがロッキード・マーチンに作らせているけれど、スペースXは自分たちで宇宙船を全部開発し生産ラインも一括でやっていて、NASAの力は必要ないと。これまでと違うやり方ですね」と矢野さんが問いかけると、スティーブさんは「Yes! Whole New World(新しい世界なんだよ)」と笑う。

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    民間宇宙船クルードラゴン(奥)訓練中のNASA宇宙飛行士。クルードラゴンは2020年5月中旬以降に有人初飛行を予定、2021年後半にも民間宇宙旅行に使われる計画だ (提供:NASA)

民間宇宙飛行士の訓練もNASAで実施、訓練内容は変わるのか?

最近は民間宇宙開発に関するニュースが目白押しだ。3月頭に、Axiom Space社がスペースX社の宇宙船で3人の民間宇宙飛行士を2021年後半にもISSに運ぶことを発表。さらにISSに新しい商業居住モジュールを2024年後半に建設する計画だ。また、別の企業が民間宇宙飛行士の訓練をNASAで行うことについてNASAと契約を結んだと報じられた。

急速に進むISSの民営化や商業宇宙開発のうねりについて、スティーブさんは「とても忙しいよ。ISSは今年で20周年を迎えて通常の訓練をこなしながら、多数の企業に対応しないといけない。商業宇宙開発の分野はどんどん進んでいて、それぞれ異なる分野の仕事になります。でもいいことだよ。宇宙開発のバラエティが増えて、1つの可能性がダメでも他の可能性がある。宇宙飛行士にとってもいいことだと思うよ」

では、民間宇宙飛行士の訓練は、NASA宇宙飛行士の訓練とどう違いますか?

「AXIOMの宇宙飛行や商業モジュールにしても、どのくらい滞在できるか、詳細はこれからですね。一週間程度の滞在なら、それほど長い訓練は必要ないと思います。つまり民間宇宙飛行士はユーザー(利用者)とみなされるので、食べて寝てトイレをどう使うか、基本的なシステムの理解でいい。でも月単位の滞在になると、もう少し深いレベルの訓練が必要になるでしょう。モジュールの仕組みや安全、セキュリティシステムがどうなっているか、ほかのモジュールにどんな影響を及ぼすのか、クルーは何をすべきか。どんなレベルの訓練になっても、ここJSCで訓練を行うことが可能です」

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    ISS初の商業モジュール、ビゲロー・エアロスペースの膨張型モジュールの訓練用実物大模型もあった

宇宙飛行士に必要なもの

訓練について、矢野さんは言葉を選びながらこんなことをたずねた。「たくさんの宇宙飛行士の中には、訓練するうちに『この人はちょっと素質がないかも~』と思ったことはありますか?

スティーブさんはにやりと笑いながら、しばらく考えてこう答えた。「宇宙飛行士も一般の人とそう変わりません。様々な分野で得意なことと苦手なことがあり、訓練するうちに、ある分野において、スペシャリストになるのです。

たとえば、私はメカニカルなことが好きで、車をすべてのパーツに分けてもまた組み立てられます。一方、私の16歳の娘は組み立てはできませんが、運転のスペシャリストです。チーム全員が車を組み立てられなくてもいい。医学に長けた人もいるでしょう。訓練する中で一人一人について、何が得意かを見極めて担当してもらうのです」

この答えに矢野さんは「じゃあ全員が全てにおいて、同じレベルでなくていいのですね?」とちょっぴり安心した様子。「最先端の宇宙開発でも結局は人なんですね。どういう人でどうことができるかをちゃんとみてくれる。そこが面白いですね」と。

どうやったら普通の人でも宇宙に行ける?

では、矢野さんや私たちは、どうやったら宇宙に行けるでしょうか?

「たくさんの異なる方法があります。まずは次のNASAの宇宙飛行士選抜に応募すること。それが難しいなら、ヴァージン・ギャラクティックやスペースX、ブルーオリジンなどたくさんの会社が宇宙旅行のチケットを販売しています。時間が進むにつれて、もっといろいろな手段が出てくるでしょう」

宇宙飛行士になるために最も大切なことはなんだと思いますか?

「技術的にいくら長けていても、1人では宇宙に行けません。『Good team player』であること。つまり他の仲間とうまくやっていけることが最も大切だと思います。火星への旅になれば数年間かかりますからね」

火星に人類は到達できるでしょうか?

「ロボット(火星探査機)は今年打ち上げられますね。人間が今、火星に行けるかといえば行けません。膨大な食料や水をどう運ぶかなど、課題は山積みです。でも月で練習すれば、必ず行けるでしょう。私が生きている間に行けるという自信があります。なぜなら先ほど見た、ビゲロー・エアロスペースの膨張型モジュールは、『きぼう』の与圧モジュールの約10分の1ほどに軽くできています。テクノロジーの進歩で質量を減らすことができれば、より早く、より遠くへ、効率よく行けることになります。まずは月に住むこと。それができれば、火星へ行くことも可能になるでしょう」とスティーブさんが言えば、「きっと、できるはずよ」とジャネットさんも応じる。ここから宇宙に何人もの人を送り出してきた彼らの話を聞くうち、火星有人飛行が実現可能に思えてきた。

矢野さんの宇宙取材はまだまだ続く。後編となる次回は、NASAで訓練中の金井宣茂JAXA飛行士に矢野さんがたくさんの質問をぶつけます。お楽しみに!

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