3つのエリアに分類される歩行者用道路データ
こうした歩行者用道路のネットワークデータには複数の種類がある。全国のさまざまな地域を高密度、低密度、道路ネットワーク流用の3エリアのいずれかに分類して整備が進められている具合だ。1つ目の高密度エリアは、詳細な歩行者ネットワークが整備されているエリアで(画像53)、クルマ用の道路ネットワークは一切流用されておらず、調査も専用で行われている。1日の利用客数が5万人以上の鉄道駅およびその周辺が主な整備ポイントだ。この場合、歩行者ルートのすべてと正確な位置情報が調査されるという。ちなみに山手線の内側はすべて高密度エリアだそうだ。そのほかにも大阪駅や、ゼンリンのお膝元の小倉駅など、政令指定都市の主要駅の周辺は高密度エリアになっているそうである。
次に低密度エリアは、道路ネットワークがベースではあるが、それだけで表現できない歩行者専用ルートを補完したものだ(画像54)。主な整備ポイントとしては、政令指定都市内の鉄道駅やそのほかの主要な鉄道駅の周辺、公園、観光スポットなどだ。それらにポイントを絞って調査が行われ、鉄道をまたぐ歩道橋などの情報が追加されているのである。
最後は、道路ネットワーク流用エリア。多くの歩道は、車道に併設されていることが普通なので、クルマ用の道路ネットワークがそのまま流用できるエリアも多い。よって、高密度および低密度エリア以外は、クルマ用道路ネットワークが流用されているというわけだ。ちなみに、低密度エリアと道路ネットワーク流用エリアは、道路ネットワークが流用されているわけだが、高速道路や有料道路などの自動車専用道路と、一方通行や進入禁止などの歩行者には不要な自動車用の規制情報は自動的に削除される仕組みだそうである。
画像53(左):高密度エリアでは、前述したつくば駅周辺や、新宿などは歩行者専用道路が多く、それだけに絞った調査が行われている。画像54(右):低密度エリアでは歩行者専用道路のみの調査は行われないが、通常の調査の中の一環として、歩行者専用道路の有無やそのルートなどの確認が行われる。 |
まるでダンジョンのような地下街もナビが可能
歩行者用道路にはさまざまな属性がある。その内容は、階段、エスカレーター、エレベーター、スロープ、動く歩道、段差などだ。それらは地図上では色で区別されており、階段なら赤、エスカレーターなら青、エレベーターは水色、スロープはシアン(紫)、動く歩道はちょっと薄めの青、段差は茶色という具合である(通常は灰色)。またエスカレーターの場合は上りと下りがあるのでその進行方向に関する属性も扱われているという(画像55)。
そのほか、屋根があるかないかも設定されるので、そうした情報の組み合わせによって、「(階段が少なく、エレベーターなどで)楽ができる」や「雨の日や日差しの強い日も安心な屋根のある」ルートも出せるというわけだ。実際にクルマのルートと歩行者ルートを比較したのが画像56で、赤とシアンが歩行者ルートで、青い点線がクルマルート。小倉駅近辺をモデルとしたものだが、屋根ありルートも選べるので、雨天や日差しの強い日でも実際に安心である。このほかにも、女性向けに夜間の安全性を優先した「大通り優先ルート」などもアプリによっては選択できるそうだ。
もちろん、こうした複数のルート案内はナビのプログラムがそれらの情報を活用する仕組みになっていないとならない。ただし、便利になることは間違いないので、ゼンリンとしてはナビメーカーが活用できるようにと、こうしたデータも整備している。ちなみに、あえて階段や段差が多く、エスカレーターもエレベーターも動く歩道も通らない健康増進・身体鍛錬用とでもいうようなルートも、ナビメーカー次第ではできるそうだが、今のところそういうナビにしろアプリにしろ、開発はされていないという。「ダイエットルート」なんて設定があってもいいのではないかと思うが、いかがだろうか?
それから、歩行者専用道路の1つである地下街については、特別な整備が進んでおり、画像57が例として紹介している東京駅の八重洲地下街だが、歩行者の道路ネットワークに加えて、テナントの名称やその区画など(物件ポリゴンデータと呼ばれる)も整備されており、店舗へのルート表示も可能となっている。物件ポリゴンデータも整備している理由は、地下街・地下通路は住宅地図がないことが大きい。そのため目標物や位置把握がしづらいので、物件ポリゴンデータを整備することで、ユーザーの利便性を高めている。
JRや私鉄が集合するような大都市の拠点駅には、複数の地下鉄が乗り入れていることもよくあるので、拠点駅は地下街・地下道を伴っていることが多い。しかも、都心の地下鉄は隣の駅までの距離が短いので、駅と駅が地下街や地下通路でつながっていることも珍しくなく、まさにファンタジーゲームでお馴染みのダンジョンである。
例えば、東京駅を中心として、南側にあるJR有楽町駅近辺と、西から北にかけて広がる地下鉄の大手町(東京メトロと都営地下鉄が合計5路線が乗り入れていて東京で最も多い)を結ぶ地下街・地下通路などはまさにダンジョンといっていいだろう。新宿も地下鉄の駅や西側の高層ビル群とつながっていたりするので、かなり面積のあるダンジョンである。こうしたダンジョンは間違えずに移動できれば、便利なことは間違いない。地下通路と直接出入り口がつながっているビルなども多く、場所によってはまったく雨に濡れずに目的地に行けるからだ。
そうしたことを考えると、地下街・地下通路を利用したくなるわけだが、どうしても地下街や地下通路は屋外と違って景観が画一的で現在位置を見失いやすいため、地下街や地下通路でもしっかりと案内してもらえるのは非常に心強い話なのである。
地下街のネットワークなどの整備だが、これまた最初は調査員が自らの足を使って情報を収集するところから始まる。その原稿地図の情報を取り込んで、ネットワークを整備していく。まずは背景形状(店舗および通路の形状など)を入力し、続いて各ネットワークを整備。最後に、各店舗に関する物件情報を配置していくという流れだ。物件情報には座標が入力されるほか、IDも登録されるので、IDによってどの分野のお店かもわかる仕組みだ。こうして完成したデータが、地下街検索のベースデータとなったりするのである。