ポリゴンと文字情報を結びつけて管理
続いては、そのモニタ上に表示されるコア・データベースのデジタル地図データの見方について説明しよう。まず画像9をもう一度見ていただくと、緑色の網(トーン)がかかっていて、緑の線分で囲まれた小さないくつもの四角形もしくはそれに準じた多角形が見えると思う。これらは所有者名などが合わせて記されているのでおわかりかと思うが、すべて住居やビルなどの建物を表し、「建物ポリゴン」と呼ばれている。もちろん、緑の線分が建物の形状を示す。
ちなみにポリゴンというと、3DCGで立体面をカクカクと表現するのに使われる三角形や四角形のイメージが強いかと思う。本来は「多角形」という意味であり、デジタル地図データでもよく使われる用語だ。建物ポリゴンのような場合は線分が閉じていることから「クローズド・ポリゴン」とも呼ばれる。ちなみに、建物ポリゴン上の建物名や所有者名などの文字情報は、建物ポリゴンと結びつけて管理されているのはいうまでもない。
ポリゴン化されているのは、建物のほかにも市区分などの行政界もそう(画像10)。行政ポリゴンの方は、大きく4つのレイヤ(階層)で管理されている。一番上が市区町村レベルで、その下が大字レベル、3番目が小字・丁目(ちょうもく)レベル、一番下が街区レベルとなっている。もう少しわかりやすく説明すると、大字レベルとは、市や区ならその下に続く町名、村などの場合は大字が扱われる。例えば、今回サンプルとして登場している地図データの東京都江東区亀戸だったら「亀戸」のことである。
小字・丁目レベルはその通りで、何丁目という具合だ(村の場合は小字)。街区は、何丁目をさらに細分化した、1ブロックのこと。碁盤の目の地域だとわかりやすいと思うが、生活道路のような細い道路に囲まれた正方形もしくは長方形の1ブロックを指す。1つの建物を表すにしても、このようにいくつものエリアの細分化がなされていて、それぞれ紐づけがなされているのである。ちなみに、番地や号などは建物1つ1つにつけた形で記録されており、建物ポリゴンと行政ポリゴンを結びつけることで、建物をピンポイントで検索することが可能なのだそうだ。
前回、こうした建物の形状やサイズ、建物名や所有者名、市区町村の境界から街区の境界まで、ありとあらゆる情報は約1000ものレイヤで管理されているとお伝えしたが、レイヤごとに表示させると、例えば道路だけの場合が画像11で、そこに建物を加えたのが画像12。その上に建物名や町名など文字情報を重ねたのが画像13というわけである。
レイヤは非常に細分化されていて、同じ道路情報でも、当然ながら高速道路、国道、都道府県道、市区道などで異なる。道路という大カテゴリでもまとめられているので道路情報だけ(道路の線分だけ)を表示することも可能な一方で(画像11)、国道だけといった表示も可能というわけだ。
これは建物も同様で、ありとあらゆる建物をまとめて表示できる一方で(画像12)、一戸建てのみとか、集合住宅のみとか、一戸建てや集合住宅を合わせた、住居ということでまとめて表示したりもできるのである。そのほか鉄道や河川、公園などなど、さまざまな区分でそれぞれレイヤが用意されており、またグループ分けなどがされているというわけだ。
また、種類の異なるレイヤを選んで重ねて表示されることも当然可能(画像13)。道路と建物を表示させて、建物名などの文字情報はなし、などといった表示も自由自在だ。その文字情報も、例えば同じ建物でも、施設名、事業所名、所有者名などでレイヤが異なるので、どの情報だけを表示するのか、またどれとどれを表示させるかということも、ワンタッチで行えるのである。こうしたレイヤの細分化は前回もお伝えしたが、一般の地図だけでなく、ユーザー別にいる情報だけを表示させた特殊な商品を作ることが容易になることから行われているというわけだ。
画像11(左):道路のみの情報。黄色は生活道路や私道などの細い道路で、オレンジ色は都道府県道や国道などの幹線道路。画像12(中)。さらに住宅ポリゴンを表示したところ。一般住宅が建ち並ぶ過密な地域と、建ぺい率的に余裕のある大きな建物が建つ地域との差が如実にわかる。画像13(右):町名や建物名などの文字情報を重ねたほぼ一般的な住宅地図の状態。 |
ドアtoドアのナビゲーションまであと一歩
そしてこれまた前回でもお伝えしているが、現在、ゼンリンにおいて進められているデータ整備の1つが、カーナビの案内をより正確にすることを目的とした「ドアtoドアのナビゲーション」の実現のため「建物の出入り口情報」の反映だ。2008年から長期間にわたって、調査員による通常のローラー調査の一環として、建物名や所有者名の確認と共に行われ、現在はデータへの反映が進んでいるところだ。要は、今稼働しているカーナビの多くが、一部の有名な建物を除いて、多くの場合が目的の建物までは案内してくれるが、出入り口や駐車場の入り口までは案内してくれず、ぐるぐる周囲を回ってしまうような状況だったりする。
従来は、ランドマークとなっているような有名な建物には物件情報として出入り口情報などが用意されていたが、それほど大きくない施設や一般の住宅などは、そこまで整備されていなかったため、それを現在、一般の建物にも広げているというわけだ。
従来の情報でも、厳密には出入り口情報として設定されているわけではないのだが、その建物が目的地にセットされた場合にそこまでクルマを案内するという、当たり前なのだが最も近い道路にポイントが設定されている(画像14)。その多くがその建物に隣接する正面の道路なので、ちょうど玄関や門、出入り口などとそれが一致している建物も多い。
しかし、中には個人宅でもまるまる1つの街区を使っているような大邸宅や、もっと大きな大型のオフィスビルなども多い。2つ以上の道路に接している場合、これまでもポイントは設定されていたわけだが、それが必ずしも玄関や門、出入り口と一致しているとは限らないわけで、その確認作業とデータベースへの反映がなされているというわけだ。これが完成して初めて、すべての建物に対して、ドアtoドアのナビゲーションが実現するというわけである。
それでは、現地調査において、従来のポイントと実際の出入り口が異なる時はどのようにするかというと、原稿地図上で正しい位置にピンクの蛍光ペンで出入り口の正しい位置を記していく。画像8を改めてみていただきたいのだが、建物によってはピンクの蛍光ペンが書かれている部分があるはずだ。
また、そうした複数の道路に囲まれた建物だけでなく、狭い道を入っていかないと玄関にたどり着けない住宅なども特別な設定がなされている(なお、元々私道は案内されない設定)。そうした狭い道にクルマが入れる場合は、もちろん各建物別に出入り口設定を設ければ間に合うわけだが、幅員が足りなかったり車止めがあったりして物理的にその狭い道にクルマが入っていけない場合は、その狭い道が接している、最寄りの一般道とも出入り口情報が設けられ、モニタ上ではピンクの1本線で表示される(画像15)。
こうしたクルマが入っていけない狭い道の奥の建物は、出入り口とは直接つながっていない道路が距離的に近いことがあり、従来だと「目的地周辺です」ということで、確かに近くなのは間違いないが、出入り口がわからないという状況でナビが終了してしまうことになっていた。例えば画像14でいえば、「25」と番号が振られた住居などは、本来は家の前の狭い道と左側の幹線道路が接している辺りまで案内してほしいわけだが、距離的には「31」と番号が振られた建物の前辺りの方が近いため、そこら辺で「目的地周辺です」となっていたわけだ。
しかし、それだと「25番の家はどこ? 玄関はどこにある?」と結局なってしまうわけで、それを生じないようにするのがドアtoドアナビゲーションであり、画像15のように設定することで、仮に道が狭くて家の前まではクルマでは行けないとしても、出入り口がわかる位置まで案内してくれるようになり、「目的地周辺です」という、「あとは自分で探してね」的な案内から、「目的地です」という確実な案内ができるようになるというわけだ。
なお、この出入り口情報に関しては、コア・データベースでの入力作業はほぼ完了しており、あとは出入り口と出入り口の間の道路ネットワーク情報が完成すれば、いよいよドアtoドアのナビゲーションを実現できるということだ。この道路ネットワークの整備状況は、まだ細道路の分が整備中ということで、もう少しかかるようである。データが完成し、そうした情報を採用するカーナビが発売されれば(あくまでもゼンリンは地図情報を提供する企業であり、どのデータを利用するかはカーナビメーカーのチョイス次第)、狭い道路まで網羅したドアtoドアナビゲーションを体感できるようになるというわけだ。