食品の重みを擬似的に変化させて食感も変化させるAR技術

続いては柔軟コンピューティングではないのだが、「Cuddly」同様にお子様向けのメディア技術の「GaTaGo Train」。音と振動をメディアとしたAR技術の1種といっていいだろう。日本における電車のオモチャの王道といったらプラレールだが、いってみれば、その電車の走るリアル感をさらに増すための技術というイメージだ(動画3・画像9)。仕組みとしては、プラレールの電車を動かすと、その動きに合わせた電車の走行音や、止めた時はブレーキ音などがし、なおかつ遊ぶ際は台の上に載るのだが、その台から音と連動した振動が身体に伝わる仕組みで、電車に乗っている、もしくは電車を動かしている感がより強くなるというものである。

一時期、「電車でGO!」などのゲーム寄りから、PC系のリアルなトレインシミュレーターなどが流行ったが、もしイスなどに座ってそうしたゲームを遊ぶ場合、座面からこうしたリアルな振動が伝わってくると、より運転している感が増すのではないだろうか? これまた、すぐにでも商品化できそうな技術だといえよう。

動画3。日本の男の子は、かなりの高確率で電車が好きなので、子どもたちが喜ぶはず
画像9。プラレールを楽しむためのしすてむとして発売するのはどうだろうか?

続いては、「おもみ調味料グラビトミン酸」。なんだか食品に含まれていそうな成分だが、もちろんそんなものはない。食品をはしやフォークで刺した時の重量は、食品の歯ごたえや満腹感と関係しているそうで、そのことに着目して、おもみ調味料グラビトミン酸は食品の重みを擬似的に変化させることで食感をも変化させるという架空の設定なのである。

もちろん、そんな物質があるわけないので(少なくとも現在のところは)、具体的には、それを擬似的に感じさせているのは当然。AR技術としてアクチュエータを備えたスプーンに食品(ここではマシュマロやベビースター太麺など)を載せた際、振動を利用して重くなったように思わせるという仕組みだ(画像10)。多くの人が試して感じた項目にシールを貼ってあるのだが、まだまだ改良の余地があるようで、大きくなったり重くなったりしたのを感じたという人もいれば、あまり感じないという人も。筆者の場合は、いわれてみれば重くなったような、という感じだった。

画像10。実際にグラビトミン酸を開発するには、重力子が発見される必要がある!?

紙コップ風の糸電話型AR装置

それから、稲見教授の直接的な研究成果というわけではないのだが、慶応大大学院メディアデザイン研究科リサーチャーの仲谷正史氏、慶応大環境情報学部の筧康明 准教授らが行っている活動の「TECHTILE(テクタイル)」という、触感を意識した価値作りを目指す活動で開発されたツールキット(画像11)を用いて作られた、紙コップ風の糸電話型AR装置の感触も楽しめた(画像12)。

どういう装置かというと、片方のコップにビー玉、小石など、色々なものを入れると、それとケーブルでつながっている反対側の何も入ってないコップに入れられた(注がれた)物体のリアルな振動が再現され、まるでそのコップに実際に入れられているような感覚を得られるというものだ。

この技術の仕組みとしては、マスター側のコップの底面(裏側)に振動をキャッチするセンサ(マイクロフォン)があり、スレーブ側のコップにはその振動を正確に再現するアクチュエータ(ボイスコイル)がある。またポイントとして、従来のこうした触覚提示の場合、1kHz位までの振動しか収集していなかったところ、もう少し高い成分も含めたことだそうで、それによって、リアルさが増したのだという。この基本的なマイクロフォンやボイスコイル、そのほかのハードウェアと、感触データのサンプルソースなどはオープンソースとして公開中なので、興味のある人はこちらをご覧いただきたい。

画像11(左):TECHTILEツールキット。公式サイトより抜粋。画像12(右):稲見教授の直接の説明で、TECHTILEツールキットを用いた糸電話型のAR装置の感触を筆者が試しているところ