去る2月28日・3月1日に、慶應義塾大学(慶応大)日吉キャンパス協生館にて、慶応大大学院メディアデザイン学科(KMD)による、最新の研究成果を一般公開した「第4回KMDフォーラム」が開催された。少々時間が経ってしまったが、興味深いテクノロジーやロボットなどが披露されていたので、遅ればせながらお届けする。

KMDといえば、AR研究や光学迷彩などで知られる稲見昌彦教授(画像1)が所属する、慶応大学大学院で学部のないのが特徴的な学科である。その光学迷彩も少しずつ進歩しており、筆者が初めて拝見させてもらった5年ほど前の時に比べて段々と見やすくなっているところだ(画像2~4)。

画像1(左):稲見教授。画像2(右):稲見教授の光学迷彩は、ある一定の角度から見ると実現するのだが、そのためののぞき込む装置がこちら。以前は、もっと大がかりで、投影機が右側にあったりしたが、つい先頃まで日本科学未来館に展示されていたものなど、最近はコンパクト化された

画像3(左):普通に見ると、この通り。後述するが、外骨格スーツのスケルトニクスだ。画像4(右):装置を通して観ると、ご覧の通り、背景が透けて見える。仕組みは、屈折率2.0の再帰性反射材(2.0だと、入射光がそのまま反射して同じ角度で外に出て行く極小のガラス玉で、自転車の反射板などでお馴染み)がスケルトニクスのダークグレーの部分に塗布されており、その上に寸分違わないよう、背景の映像を投影しているので、まるで透明になったように見えるのである

柔らかい物を活用するためのコンピューティング

そんなわけで、まずは稲見教授の研究室における多彩な研究成果の内、「柔軟物コンピューティング」に関する研究から紹介しよう。1つ目は「Graffiti Fur」といい、カーペットをキャンバスに見立て、カーペット表面の毛を一部だけ毛羽立たせて、それによって絵を描くというというものである(画像5・6)。いわゆるコロコロのような仕組みのローラータイプやペンタイプを使い、あらかじめ絵のデータを用意しておくことで、絨毯の上を掃除するようになめていくと、絵が完成するという仕組みだ(動画1)。何に使えるかというと、もちろん一般住宅のリビングなどにも遣えるし(画像7)、ホテルのエントランスなどでも遣える。毛の深いカーペットが使われているのであればどこでも利用できるし、毎日絵や文字を変えるということも可能な一方、スプレーのりを遣えば絵柄を固定することも可能だ。これは、すでに商用利用ができそうな技術なのだが、いかがだろうか?

画像5(左):このレベルだと、手で描けそうな気もするが、きっちり直線的なので、手だと結構大変。画像6(右):データさえあれば、このようなもはや芸術品というレベルにも仕上げられる

動画1。こちらは早稲田大学で行われた、稲見教授の講演の中で紹介された早送りで絨毯に描いていく様子
画像7。このように、リビングのラグやカーペットが芸術品に早変わり

2つ目は「Cuddly」といい、スマートフォンの圧力センシングを用いて、ヌイグルミなどの柔軟物とインタラクションを可能とするアプリだ。要は、ヌイグルミなどにCuddlyを起動した状態のスマホを入れ、それがヌイグルミなどが押しつぶされた度合いを計測し、押したり握ったりといった動作に対し、音声や映像で反応を返すのである(動画2・画像8)。動画はおそらく男子学生が声を吹き込んでいるのだろうが、これもきちんと女性の声優さんを使うとかすれば、ヌイグルミをしゃべらせられるようになるわけで、すでに商用の可能性が非常に高いと思うのだが、どうだろう?

動画2。自分のお気に入りのヌイグルミが、スマホで触るとしゃべったり光ったりと反応するヌイグルミに早変わり
画像8。Cuddlyは小さい子や女性なんかが喜びそう