――万城目さんは小島さんにゲーム以外で何か作ってほしいものはありますか?

万城目:机や椅子などの事務用品を作ってほしいですね。あと仕事がはかどりそうなオフィス文具。僕は小島さんの作品が全部大好きなんですけど、小島さんのゲームはスタートボタンを押したときに出てくる画面の整理のされ方とか、スムーズさが本当に凄いと思うんですよ。とても操作しやすいんですよね。だから、仕事まわりのデザインを手がけたら、これまた凄いものができると思うんです。

小島:そこはゲームを作るときに一番気をつけているところなので、嬉しいですね。よく言われるんですけど、ゲームデザイナーの仕事にはインタラクティビティをユーザーに分かりやすくすることも含むので、万城目さんが今おっしゃったようなことをずっと考えているんです。そんなことを考えながら、街中を歩いているとほんと理解しづらいものが多い。例えば、トイレの案内板にしても知らない間に同じ所を一周グルっとまわっていたりとか。サインデザインについても気に入らんのがいっぱいありますね。だから、街中の色々なところのデザインにゲームデザイナーが関わっていくと良くなると思うんですけどね。

――なるほど。

小島:男子トイレで小便器に「もう一歩前に近づいて下さい」と書いてあることがあるんですけど、ああいうのを字で説明するのが一番カッコ悪いんですよ。「右を見て下さい」じゃなくて、右に裸のおねえちゃんを置いておけば、みんな右を見るんですよ。そういう"一歩前に行きたくなるような環境"を作るべきなんです。それがライティングなのが、下のタイルをわざと不安定にして立ってもらいたい部分でしっくりくるようにするのかは分かりませんが。そういうことを考えるのがゲームデザインの基本なんです。

万城目:トイレに書いてある「いつもキレイに使っていただき、ありがとうございます」もほんと大嫌いですね。

小島:あぁ嫌いですね。でもそのなかで好きなのは、「このトイレは勝手に水が流れることがあります」って書いてあるものですね。なんやこれ、心霊トイレかいなってね(笑)。なぜ自動的に水が流れるのかを説明してないから恐いんですよ(笑)。

――今後、お互いにどういった作品を作ってもらいたいですか?

小島:僕は海外を舞台にした万城目さんの作品が読みたいですね。時代設定は冷戦時代とかなんでもいいですけど、東欧のほうで。

万城目:(海外を舞台とした作品は)ものすごく考えてますよ。

小島:いけると思いますけどね。結局は万城目ワールドになると思いますけど(笑)。

万城目:ただ海外を舞台としたときは小島さんが嫌な敵として立ちふさがるのは間違いないんですよ(笑)。あらゆるところで小島さんの作った作品の影が見えて。アイディアを思いつけば、「これ小島さんのあの作品で見たやつや」ってなって。そういうのを全部排除して新しいアイディアを探していくのは凄く難しいと思う。

小島:万城目さんはネタ帳とかあるんですか?

万城目:ぼんやりと頭のなかには。

小島:石田衣良さんなんて10年先まで書く作品が決まってるとかいいますよね。

万城目:3、4年先までは、ぼんやりと考えてはいますけどね。

小島:これ、怒らないで下さいね。万城目さんの作品って絶対売れそうにない作品じゃないですか。なのに売れるから凄いんですよ。普通作家さんって、売れたいじゃないですか。そうすると、警察小説とか公安部隊モノになるんですよ。でも万城目さんはそんなの関係ない。自分の好きなものを創っているように僕には見えるんですよ。自分の好きなテーマで、万城目さんにしか書けないような世界観で。しかもワケの分からんタイトルで(笑)。最新作の『とっぴんぱらりの風太郎』なんて750ページ以上あって1,900円ですよ。誰が買うねん!って思っていたら、みんな買っているわけですよ(笑)。

万城目:僕は、小島さんにはコンスタントに1年に1作品出せるようにしてほしいですね(笑)。小島さんが直接手掛けなくてもいいので、良い後継者を3人くらい育ててもらって。

小島:なかなかうまくいかないんですよねぇ。万城目さんもそうだと思うんですけど、万城目さんのプロットを誰かに渡しても書けないですよね。僕の企画もそうなんですよ。例えば、ダンボールかぶるというアイディアもそうだったんですけど。あれもようやくスタッフが理解してくれたみたいなんですけど、最初はみんなに「やめてくれ」って言われていたんですよ(笑)。「なんでそんなカッコ悪いことをするんですか、こんなカッコいいゲームで」って。でも、最近じゃ「ダンボールがないと嫌です」と言われるようになってきて(笑)。そういったことを考えても後継者をというのはなかなか難しいですよね。

撮影:石井健