――小島さんはゲームデザイナーとして、万城目さんは小説家として、それぞれのフィールドで日本を代表するクリエイターなわけですが、お互いの作品に対する印象を教えて下さい。
小島:万城目さんは色々なジャンルや舞台の小説を書かれていますが、すべて"万城目ワールド"と言われる作品じゃないですか。これが凄いことだと思うんです。『鴨川ホルモー』で舞台となっている鴨川は凄くローカルですし、『鹿男あをによし』では奈良県の鹿がしゃべったり、今回映画化された『偉大なる、しゅららぼん』では琵琶湖に超能力じゃないですか。最新作の『とっぴんぱらりの風太郎』も京都を舞台に主人公が忍者で。ローカル発の作品で、そのなかにファンタジーやSF、時代劇などがたくさん詰まっているんです。普通に考えたら、絶対こんなに上手く作品に落とし込めないんですよ。SFなのかなんなのか。ジャンルがあるとしたら、それは"万城目"なんですよ。色々な世界を書かれてますけど、歴史とか社会を描くというよりも"万城目ワールド"を描いているんです。そして、この世界は万城目さんの性格やツイッターの内容とか、小説以外も含めて"万城目ワールド"なので女性ファンも多いですし、そこが凄く惹かれるところなんだと思うんです。
万城目:小島さんの場合は、多分ゲーム制作以外のことをやっても色々できると思うんですけど、あえて"メタルギア"というところにいるから。
小島:そうですね、会社員ですから(笑)。
万城目:どんどん深く進化していっているんですよ。ひとつのタイトルで、ここまで世界に知られている日本人は、エンターテインメントの分野でいないです。そして、努力をおこたらない。日本にいる小説家の誰よりも本を読んでいるんじゃないですかね。
小島:ろくな本は読んでないですけどね(笑)。映画と一緒で当たりは1割くらいですから。
万城目:そうやって凄く勉強していて、新しいことを取り入れながら仕事しているので、そこを見習わないといけないと思いますね。
小島:万城目さんの作品はローカル発なんですけど、扱っているテーマはワールドワイドでやっていけるものなんですよ。そして、万城目さんの小説はほんまに映画化が難しいです。普通には撮れないですよ、ギャグなのかシリアスなのか、分からないところもありますし。そこを映像化するのは本当に難しいことだと思うので。そういった意味では、今回の映画『偉大なる、しゅららぼん』は良く出来ていたなと思いますね。
――映像化が難しい作品ではあるけど、今回は映像化がうまくいっていると。
小島:本当は万城目さんが監督するしかないような気がするんですけどね。キャラクターのセリフひとつとってみても、ちょっと扱い方を間違えるとシーンが台無しになってしまうので。難しいですよね。万城目さんの作品は、壊れやすいガラス細工のような繊細な作品なんですよ。色々な要素を万城目さんがうまく繋ぎ合わせていき、絶妙なバランスで成立しているんです。それを映像化するのは難しいことですよね。
――ここまで万城目ワールドを理解している小島さんが監督をやってみてはいかがでしょうか?
小島:僕ですか?僕はちょっとできないですね(笑)。
万城目:小島さんはオープニングとか、作品の1部分的だけ作りたいと考えるタイプではないですか?
小島:いや、やるなら全部自分でやりたいですね。ほかの人が書いた作品とかはダメはなんですよ、気を使ってしまうので。他人が作った世界をどういじるか。僕なりにいじりたいところはあるんですけど、どこまで手を加えていいのか分からないじゃないですか。だから難しいですよね。自分で脚本を書いて、映画を撮るのは良いと思うんですけどね。だから万城目さんは、そろそろ映画を撮った方がいいですよ。撮影現場に行って、5分間くらいその様子を見ていれば、撮影の仕方は分かってきますから。
万城目:そうですか(笑)?
小島:ハリウッド俳優がよく映画を撮ったりしてるじゃないですか。現場にいれば撮影方法は分かってくるんですよ。なので、原作が書ける人が最後に勝つんです。ゼロをイチに変える力が一番大切なんです。
万城目:オープニングだけとか、エンディングの曲選びだけならやりたいなと思うことはあるんですよ。
小島:それでさっき僕にそう聞いたんですね(笑)。僕は全部やりたいですね。だけど、今のゲーム業界では、150~200人くらいの人数でゲームを制作しているんです。昔は自主映画の制作みたいに5人くらいだったんですけどね。だからエンドロールなんて役職が違うだけで100回くらい自分の名前が出てきて(笑)。でも今ではなかなかそうはいかない。他のひとに任せないといけないので。それがちょっとしんどいんですよね。あっ、これ、監督をやったら一番嫌われる監督ですね(笑)。