競技としての「ETロボコン」の今後

"ETロボコン"では、全チームのモデル(設計図)が公開され、大会終了後には参加者にデータとして配布される。そのため優秀チームの手法はすぐに広がり、全体が底上げされていく。3年ぐらい前の優秀モデルを今見ると、これで優秀?、というぐらいにレベルが違っているそうだ。ただ、そうなると競技としてはすぐに頭打ちになるのでは?、という疑問もわく。

小林「モデルに関しては、確かにだいぶ頭打ちがきてはいた。コースを変えると新しい手法や考え方がいろいろと出てくるが、モデルのトレンドを見ても、この2年ぐらいでそういうものがあまり出てこなくなった。審査員に言わせると、書き方もきれいになってレベルは非常に上がったが、まとまってきて面白さはなくなってきたとか」

モデル(設計図)のトレンド遷移図

弱肉強食の進化の常なのだろうが、生物でも製品でも黎明期の頃は百花繚乱、様々な方向の戦略が登場して、見ている分には面白い。だが、淘汰が進んで方向性が固まってくると、洗練と同時に停滞感も出てくる。これは仕方のないところだろう。

"ETロボコン"では、ちょうどそんなタイミングで走行体が"マインドストーム RCX"から"~ NXT"に切り替わることになった。天変地異か突然変異か、ともあれ、また新たな環境で様々な試行錯誤が行われることだろう。それにしても、いきなり二輪倒立振子の走行体というのは、従来よりかなり制御の難度が上がってしまったのでは?

小林「倒立振子のソフトは提供しているので、そこは作らなくてもいい。ただそのままではよちよち歩きのようなものなので、いかにトレースを正確にしながらスピードを上げられるか。"NXT"では、モーターそのものもサーボに変わって角度センサも内蔵したので、より細かい制御もできる。メモリも増えているので、大きなプログラム、複雑なアプリケーションも載せられる。そういう意味ではやはりレベルは上がるだろう。今年は初めてなので、まだそんなにすごいものは出てこないと思うが」

"マインドストーム RCX"の四輪走行体

"マインドストーム NXT"の倒立振子型二輪走行体「NXTway-ET」

動画
NXT走行体の倒立振子走行デモ(wmv形式 1.27MB 9秒)

より高度な制御ということでは、今後、ライントレース以外の競技や、マインドストーム以外のハードウェアを設定する可能性もあるのだろうか? 例えば、ホビー系の2足歩行ロボットにカメラを搭載して使ってみるとか……。

小林「レゴの製品を使ってはいるけど、我々も日本人なので(笑)、日本メーカーを応援していきたいとは思う。まだ具体性はないが、もう少し現場に即した機械っぽいものはどうだろう、という話も一応出てはいる」

渡辺「我々が今興味を持っているのは、二足歩行よりは、流行りのクラウドのようにネットワークやサーバを含めたシステムとの連携。"マインドストーム NXT"にはBluetoothも載っているので、パソコンとの連携で課題をクリアするようなコンテストのアイディアは出ている。我々とは別に、"MDD(Model Driven Development)ロボットチャレンジ"という飛行船ロボコンもあって、地上からの超音波と天井のカメラの両方を使って、三次元の位置を検知して目的地を目指す、ということをやっている。そういう例もあるので不可能ではないはず。あとはイベントとしてどこまで分かりやすくできて、かつ教育につながるか。現場でもネットワークを前提としたシステム開発が必要になっているので、クラウドの方向へ行くのは自然かなと。他には、九州の方で環境に貢献できるような"エコロボコン"の企画も出ていたりするので、各地区独自の動きがあってもいいのかなと思う。ロボット自体は自然に発展していくだろうから、技術者の育成というポリシーは貫きながら、柔軟に対応していくつもり」

"ETロボコン"の今後の展望を語る、小林運営委員長(左)と渡辺実行副委員長(右)

最後に、今年の大会参加者へのメッセージ、今後期待することなどを聞いた。

小林「スキルは必要だが運営側に回る人もますます増えていって欲しい。競技会に関しては、"NXT"走行体でブレイクスルーとなるモデルを誰が出してくるのか? まだよちよちより少し速くなったぐらいなので、ピューッと行くようなのを期待している」

渡辺「より分かりやすくシンプルで、みんなが真似できるようなモデルが出てきて欲しい。昨年は制御系のメーカーの方が多かったので、ITベンダがうまく制御系のやり方を盛り込み、両者が融合したものが出てくるのが楽しみ。地味な話だが(笑)、構造的に美しくて、かつ速いものが勝者。そこが他のロボコンとの違いでもあるので」