技術立国日本に貢献する「ETロボコン」のメリット

「レゴでワンメイクのロボコン?」と侮るなかれ。"ETロボコン"には、技術立国日本の将来も視野に入れた壮大な展望が広がっていた。

小林「"WRO"も"ETロボコン"も人材育成が目的で、直接、新しいロボットを作ろうという話ではないが、そういうロボットも作り出せる人材をたくさん作れればと思う」

"ETロボコン" 実行副委員長の渡辺登氏

渡辺「これからの日本がサービスロボットもどんどん産業として確立していきたいというところに、我々も陰ながら協力したい。そのために人材を育成しつつ、技術者同士の交流をコーディネートできれば。我々はソフトエンジニアが多いが、技術者同士がつながってハードの方とも交流し、何か案件があった時に企業の枠を超えて協力できるようになっていけば将来的に強い」

もちろん、将来ヘ向けての技術者のコミュニティ作りも、"ETロボコン"自体の教育的な効果があってのことだ。

渡辺「社内だけで設計していても、自分たちが本当に良いものを作れたのか、なかなか検証できない。その点、"ETロボコン"では、同じ題材を様々な人が同じ条件で作ってきて、設計の過程も、動いた結果も評価される。こうした機会は他にない。モデル(設計図)審査の観点である、いかに正しく分かりやすく設計をちゃんと伝えるか、というのも、まさに開発現場でのレビューのポイントと同じ。現場を経験した技術者には腕の見せ所だし、新人も現場に即したチャレンジができる」

"ETロボコン"本部 運営委員長の小林靖英氏

小林「2005年頃からは、参加者のモデルが製品開発の現場でもそのまま使えるレベルになってきた。機密の問題もあって現場の技術を直接は持ってこられなくても、やっている人間が一緒なら、やはり各社の色は出てくる。同じテーマでいろいろなチームのモデルを見て、自分と比較して、ということには相当な意義があると思う」

外部との交流の中で自らのエンジニアとしての実力を知り、さらなるステップアップも目指せるという訳だ。また、組み込みソフトウェアの開発サイクルすべてを経験できるメリットも大きいと言う。

小林「今は開発の全部をやるチャンスが実は少ない。大学の教育もそうだし、企業でも若手のうちはずっとプログラミングとテストだけ、全体を見渡せるようになるのは10年ぐらいしてから。その点、"ETロボコン"では頭からお尻まで、規格の分析、モデル設計、実装、テスト、フィードバック、期日が来て納品して競技会で走らせるまで、全部やることになるから、最後に自分たちで作ったという達成感も得られる。分業でうまくいけばいいが、品質の問題は大体、前工程と後工程を理解していないから起きる。だから、こういう小さなシステムで全体の訓練を積むといい」

渡辺「プアなハードウェア環境をいかにソフトウェアだけで制御できるか、というのも教育として重要。そういう"虐げられた"経験をしないで常にリッチな環境で作っていたら、どんどんプロセッサを速く、メモリを多く、という今のPCやサーバの世界に行ってしまう。プアな環境での抑え込みができるようになっていれば、次のステージに行った時、要求に対して適切なハードウェア環境も考えられる。それが組み込み」

限られたハードウェアリソースでいかに高い性能を引き出すか? これぞまさに組み込み技術の極意。確かに"ETロボコン"はこうしたエンジニアの基本的な精神を学ぶにも絶好の場と言えそうだ。

小林「人材育成をどうしようと悩んでいる会社があれば、ぜひ一度やってみて欲しい。参加費として企業では1チーム10万円いただいているが、高いという声はない。技術トレーニングも最低2回、これも人数を追加しても1人あたり5,000円。外部の企業を呼んで社内研修するコストを考えればははるかに安いし、見返りは非常に大きい。なるべく全国で開催できるようにしていくので、近くの地区で参加してもらえれば」

昨年の"ETロボコン"各地区大会のパンフレット

このように、"ETロボコン"本部では今後も技術者育成の視点に立ち、参加者たちへの情報提供を進めていくという。これまでも積極的に地方展開を推進してきたが、2010年からは、さらに北海道、金沢、沖縄でも大会を開催し、北から南までケアしようと準備中だとか。全国各地へ広がることで、企業や学校も参加・協力しやすく、自治体も支援しやすくなり、よく言われる産学官連携もコミュニティベースで具体的に立ち上がりつつあると言う。

渡辺「地方にも、地元で技術者を教育できる環境を提供したい。経産省の技術者への調査でも、今は首都圏で働いているが将来は地元に帰って働きたいと考えている人が多い、というデータが出ている。地方の製造業において、組み込みのソフトやシステムの開発ができる環境をどんどん作るべき。そのためにはまず人材育成。これがうまくつながっていけば日本経済ももっと元気になってくれるのでは」

"ETロボコン"の広がりが地方の活性化に、ひいては日本経済の活性化にもつながれば、という期待もあるようだ。