"理科離れ"が叫ばれて久しいが、実際、今の子ども達や若い世代の多くは、ケータイをはじめ様々なIT機器をユーザーとして使いこなす一方で、その仕組みや技術といった下部構造についてはあまり理解していないと言う。1980年代前半、ちょうど「EXPO'85 つくば科学万博」の頃までは、たとえば学研の「電子ブロック」だったり、BASIC言語を中心としたマイコンブームだったり、まだ技術の世界への入口が一般の少年たちの身近にもあった。だが、技術が高度化し、はるかに便利になった一方で、ブラックボックス化が進み、そうした入口もずいぶん閉ざされてしまったように思う。
渡辺「ブラックボックスをホワイトボックス化し、自分達でも作れるモノだということを知らしめていきたい。学校教育にも期待したいが、今は先生達もブラックボックス世代で、子ども達に技術を教えられる人が少ない。科学館のワークショップなどは盛んだが、親が技術者だったり、そういった方面に意識的でないと行かない。家でも学校でもどんな場所でもいいが、いかに環境や機会を提供するかが重要」
"ETロボコン"は、小林氏や渡辺氏も含めボランティアベースで運営されている。今年は170人ほどが実行委員会として活動しており、以前の優勝者をはじめ多くの参加経験者が卒業生のような形で運営側に回り、技術者が若手の技術者を育成するスキームができつつあると言う。これを、"ETロボコン"参加者が"WRO"に参加する子どもたちの支援・指導を行う形へと広げていき、さらには学校の教員や保護者とも連携していくような、トータルな技術者育成環境の実現を目指しているそうだ。
渡辺「"ETロボコン"は、先進的な"科学者"ではなく、既存の技術でしっかり製品やサービスを作れる"技術者"の育成の場と考えている。だからハードウェアはワンメイクだし、モデル(設計図)と実際の走行の両方が評価対象で、その総合評価で優勝者を決める。設計も成果もバランスよく、というのが特徴。"WRO"の方は子ども達が対象なので、科学者になりたい、という可能性も含めて提供しているが、小学生には夢を抱かせ、中学生には将来観、高校生には具体的な職業の選択、という各ステージで職業観を醸成させていきたい。その後、ETロボコンでは、技術者としての基礎をしっかり学ばせ、コミュニティとして交流させながら、ビジネスの展開だとか、大学生なら就職先などにつなげていって欲しい。そういう意味で、我々も将来を楽しみに活動させもらっている」
WROとETロボコンが連携することで、一貫した技術の理解とビジネスの結びつきが成り立つという訳だ。