被写体を立体的にとらえてサイズを計測

コムテクノロジー研究所 代表取締役 石川英司氏

歯科分野からSFの世界へ――という表現は大げさだろうか。コムテクノロジー研究所 石川英司代表取締役は、同社がビジネス化を目指す"歯科分野の3次元計測システム"を、「最終目標としてはロボットの目につなげたい」と語る。

コムテクノロジー研究所が開発した3次元計測システムは、デジタルカメラで撮影した被写体の寸法を計測する技術だ。「ものさしや針を使わずに、虫歯の大きさや歯茎の縮み具合を測れないだろうか」。7年前、石川氏が研究員として在籍する愛知学院大学歯学部からの要望で3次元計測技術の研究をスタート。歯科医療現場で実験を積み重ね、「2008年は実用化の段階」(同氏)にまでこぎ着けた。今後1年間は、ITベンチャー支援プログラムを受けて同システムの開発、ビジネス化を進めていく。

3次元計測システムは、専用デジタルカメラとWindows用プログラムの組み合わせで運用する。撮影した画像に対してソフト側で各種補正を行ない、被写体の寸法を高精度で計測するというものだ。正確な値を計測するには、ゆがみやピンぼけのない鮮明な画像が必要なため、研究当初はカメラ精度の向上が課題だった。しかし、それでは開発コストがかかるため、途中からソフトウェアによる補正を導入。画像のゆがみ補正やピンぼけを解消する全焦点技術(鮮明化技術)を利用することで、3次元計測システムのコスト低減と計測精度の向上を実現した。

画像を取り込み後、任意の部分を指定すると長さを計測できる

3次元計測技術を工業や医療分野にいかす

では実際にこの3次元計測システムをどんな分野に導入するのだろうか。想定している利用シーンについて石川氏は「工業分野での検品や医療現場、防犯カメラ分野」などを挙げる。たとえば、従来の自動検品処理は、キズの有無やテンプレート画像との差を確認するというものだったが、3次元計測技術を利用することで、より厳密に規格サイズが守られているか、キズの大きさが許容範囲内かといった検査が可能になる。防犯カメラの場合は、奥行き情報をいかした用途が考えられる。映像内の人物が立ち入り禁止区域の内外どちらにいるかを判断して防犯システムと連動するといった使い方もあるだろう。

石川氏は現在の3次元計測システムについて「実験ベースでできているので、ソフトウェア部分のインタフェースがいまひとつ。一般ユーザーには扱いづらい」と、商品としては未完成と話す。これからは支援プログラムを通じ、Visual Studioを使ったユーザーフレンドリーなインタフェースの開発に取り組んでいく。

とくに今後は、取り込んだ画像を3Dモデルとして表示させることを考えており、3D表示に必要なDirect Xに関する技術サポートを求めたいとしている。3Dモデル化するメリットの一例として、「歯科医が患者に歯の様子を説明するときに、3DCGならわかりやすくプレゼンできる。医者にも患者にもメリットがある」(同氏)。ただ、現状では被写体を3Dモデル化するには必要な数値を手入力しなければならない。年内には専用USBカメラを提供し、カメラから数値を直接入力できるようにする予定となっている。また、Windows Mobile向けのソフト開発も目指す。いずれはカメラ付きスマートフォンに同ソフトを組み込み、建築現場での建物検査などに手軽に利用できるシステムとして提供したい考えだ。

いつかはロボットの目を

冒頭の石川氏の話に戻るが、カメラで撮影した被写体を立体物として正確なサイズ情報を認識する――たしかにロボットの目としては理想のシステムだろう。すでに対象物の奥行き計測にレーザーを使うケースはあるが、ロボットの目からレーザーが照射され続ける姿はちょっと洒落にならない。コムテクノロジー研究所の開発する3次元計測技術には今後、さまざまな意味で期待したいところだ。