PC/IT化されていない分野へ「Xbit」を提供
マジックチューブは、名古屋市内のあいちベンチャーハウスに事務所を構える企業だ。2006年4月、フリーのプログラマとして活動していた向井真人氏が、「サービスモビリティ」の提供を目指して起業。組み込みPC向けのインタフェース開発やAdobe AIRなどによるRIA(Rich Internet Application)開発を得意としている。
同社の掲げるサービスモビリティとは、サービス/ハードウェア/インフラの3つをビジネスコンセプトに、ユビキタスサービスの実現に必要な"可搬性"を意味する――と説明すると少々難しく思えるかもしれない。ITベンチャー支援プログラムの事業に選ばれた組み込みPC「Xbit」は、まさにサービスモビリティ実現の核、"可搬性を提供"する製品となる。実際にどのようなサービスの実現を目指しているのか、具体例とともに紹介していこう。
Xbitは、組み込みOSであるWindows XP Embeddedを採用したモバイル用途向けの小型デバイス。バッテリ駆動に対応し、VGA端子やLAN、USBポートを搭載。無線LAN、HSDPAなどの携帯電話端末も利用できる(写真)。向井氏はXbitを「PC並みの汎用性と、専用機並みの安定性とを兼ね備えたハードウェア」と表現する。ただし、「XbitをPCとして使うことは想定していない。IT化、ネットワーク化されていないフィールドでの利用を考えている」(向井氏)。
たとえば、「テレビ中継現場」での利用を想定しているという。Xbitに携帯電話などの通信端末とハードウェアエンコーダを接続し、ワイヤレス映像中継器として動作させる。デジタルビデオカメラで撮影した映像を、Xbitを通じてリアルタイムにストリーミング配信するという使い方だ。「Xbitを持ち運べば、数人で運用しなければいけない中継車がなくても、記者ひとりで中継することが可能になる。ワイヤレス通信のサービスエリア内ならどこからでも中継できる」(同氏)。
先にXbitはユビキタスサービスに必要な可搬性を提供するものと説明したが、この例におけるXbitは、"いつでもどこからでも中継できるシステム"を持ち運べるようにするわけだ。もちろん、あらゆる中継現場で中継車に取って代わることを想定しているわけではなく、小回りがきく点をいかして中継機会を増やす、中継コストや中継システムの開発コストを抑えるといったメリットを提供するものとしている。向井氏によると、すでに放送局での運用実績があり、今後さらに広めていきたい考えだ。そのためにも「マイクロソフトの支援プログラムを通じて、(ストリーミング配信に必要な)Windows Media Serverの運用ノウハウや製品販売に関するサポートを期待したい」(同氏)。
Xbitを活用した体力測定システムもある。小学校などにある体力測定器とXbitを連携させ、測定データをサーバに送信、オンラインで集計して健康管理を行なうという使い方だ。「定期的に健康情報を分析すれば、小学生のうちからメタボリック症候群を割り出して早めに対策を施すことも可能になる」(同氏)。このシステムは、3月下旬にスポーツ施設に納品する予定とのこと。また、気象観測用のUSBセンサをXbitに取り付け、人が常駐できない/インフラが整備されていない場所での定期観測に利用するといった提案も行なっている
組み込みOSの普及でMSと思惑が一致
向井氏はWindows XP Embeddedを採用した理由に、システム開発コストの問題を挙げる。「組み込みPCは、低スペックでも動作するLinuxベースのものが多いが、ハードウェアコストは下げられても、Linux用ドライバと、とくにアプリケーション開発にコストがかかる。Windows XP Embeddedなら周辺機器のドライバとアプリケーションは、通常のWindows用のものがそのまま動作するため、開発コストを圧縮できるだけでなく、事業のサービスリリースが大幅に早まり、本来のビジネスにおける優位性確保にもつながる」(同氏)。組み込みOSの普及を図るマイクロソフトにとっても、マジックチューブの事業には期待がかかるだろう。同社は今後、XbitのOEM供給や、ネットワーク化されていない機器の開発メーカーに対するIP化提案を通じて、Xbitを中心としたユビキタスサービスの環境作りを進めていきたい考えだ。