おっとその前に、クリーンルームに入るためには準備が必要。
まず手を洗い、ゴミが付着しにくい表面加工が施されたつなぎの作業服と靴に着替え、頭部全体が覆われる帽子を被ります。二人一組でお互いに粘着ローラーをかけ合い(これが意外に効果アリ)、エアシャワーへ。床のブルーの部分は粘着マットになっていて、足の裏のゴミ粒子を吸着するとともに、落ちたゴミ粒子の舞い上がりを防ぎます。
土田氏「ゴミをとにかく持ち込まない、ということが大切なんです。クリーンルーム内では常にゴミの量をモニターしていて、5ミクロンのゴミ粒子が1立方フィートの中にいくつあるかを見ていますが、ほぼゼロかそれに近い状態です」
1ミクロンは1/1000mmという単位。山形カシオの場合、米国連邦規格が定めるクリーンルームの基準では、クラス100(数が小さいほど清浄度が高い)以上に相当します。これは、もっとも高度な清浄性能が要求される半導体工場並み。ちなみに、手術室や治療室でクラス1,000~100,000、食品工場や薬品工場でもクラス100~100,000といわれています。
ムーブメント製造ラインは、床免震設計。下記の写真で、銀色の枠内が免震機構部分で、建物が揺れても枠の内側は揺れません(震度5以上で効力を発揮するとのこと)。カシオの時計製品、ほぼ全量のムーブメントを生産する重要な部門だけに、災害への対策はやはり不可欠なのです。もちろん、自家発電装置も用意されています。
ムーブメント製造ラインは基本的に無人です。基板がラインを流れるとともに、各所でモーターや歯車が自動的にセットされていき、組み上がっていきます。これらの部品は画像処理技術を応用した位置照合や、光センサーなどの複合センシング技術により組み付け精度をチェック。ラインの最後に、人の目によって検査と(必要に応じて)微調整が行われます。
土田氏「機械が得意な部分と、やはり人間でなければできない部分があるんです。塩梅(あんばい)というか、時計作りには、人間の感性を要求する部分がある。その両方を生かした生産を目指しています」