オフィスにドラム・セット――。どう考えても違和感しかない単語の組み合わせである。ドラムはライブハウスや楽器店に置いてあるものであって、オフィスでは見たことがない。そりゃそうだ。置いてあっても使いようもないし、戸惑うだけだろう。……そんなふうに思っていたのだが、意外にもオフィスとドラム・セットは相性バツグンだったのだ。
某月某日、筆者は打ち合わせのためにマイナビオフィスを訪れていた。会議室で打ち合わせを済ませたところで、担当編集が一言。
「山田井さん、疲れてますよね」
えっ、そんなふうに見えるかな。
自分ではむしろやる気オーラをみなぎらせていたつもりだったんだけど……。
どうやら自分でも気づかないうちに、疲れた雰囲気が体からにじみ出ていたようだ。たしかにここのところ猛烈に忙しかったこともあり、油断するとすぐボーっとしてしまう。仕事のストレスもためこむだけでうまく発散できていないと感じる。
「そんな山田井さんに、仕事のストレスを発散して能率をアップできるかもしれない、とっておきのアイテムがあるんですが」
担当編集が何か言い出した。仕事のストレスを発散して能率アップできるアイテム……? そんなものがどこにあるの?
それはオフィスの隅っこに鎮座していた。もしや、これは……。
「そうです。ドラム・セットです」
やっぱりかー! 音楽にはとんど疎い筆者だが、ドラム・セットくらいは見たことがあるぞ。でもこれ、普通のドラム・セットと何か違わない?
実はこのセット、ローランドの電子ドラム、V-Drumsシリーズの「TD-1KV」という製品なのだ。一般的にライブなどの演奏でよく見るドラムは「アコースティック・ドラム」だが、防音設備のない一般のご家庭で練習することは難しい。そこで今一般的に普及しているのが電子ドラム。静音性に優れているので場所を選ばず練習することができ、それでいてヘッドホンなどを使えば自分の耳にだけはリアルなドラムの音が再現されて届くというわけ。
確かにこれならオフィスに置いてあっても、皆さんの迷惑にならずにドラムの練習ができる。やったね!
……いや、おかしいだろう。そうじゃなくて、邪魔になるとかならない以前に、普通のオフィスにはドラム・セットはありませんから!
というか、よくドラム・セットなんて設置できましたね。こんな大掛かりなものを組み立てるの、半日がかりじゃない?
「いや、それが、めちゃくちゃ簡単なんですよ、これ。慣れたら10分とかで組み立てられるんじゃないですかね」
10分!? いくらなんでもそれはありえないだろうと思ったが、担当編集は「本当なんですって」と主張する。じゃあ、一度分解してから、もう一回組み立ててもいい?
「……えっ!? ……ええ、まぁ、いいですけど」
せっかく組み立てたのにという恨みのこもった視線をスルーして、「TD-1KV」を組み立て直すことに。考えてみたら、ドラム・セットを組み立てる機会なんて、そうそう体験できないぞ。