――そして、『クイズタイムリープ』を企画されました。

スポーツ局が作るバラエティは名場面を紹介するアーカイブ番組が多いのですが、中にいると過去の映像を使っても「アーカイブ番組」と意識しないで作っているフシがあるんです。

――たしかに、スポーツの過去の映像は、選手一人ひとりに許諾を取ることもないですから。

そこで、「スポーツでもアーカイブに頼らない番組を作りたい」という思いで考えたアイデアが“タイムリープ”です。最初は過去vs今のスポーツ対戦ができないかと考えていました。

――そこからジャンルをクイズ番組にすることで『クイズタイムリープ』が成立しました。第1弾が8月に放送された後、すぐに第2弾が決まりましたよね。

OAが終わった翌週に、編成から「年末にやってほしいので、企画書をください」と言われて、プライム帯で放送するにあたってのアップデートをいろいろ盛り込んで提出しました。この番組は各局でできる技術でもあるので、早めに2回目をやっておこうという狙いがあるのではないかと推測しています(笑)

――どのようなアップデートを行っているのでしょうか。

制作に没頭してると、クイズと向き合わなきゃいけないし、当時の解答者との競い合いを大事にしていたのですが、反響を見ていると、「当時の出演者と会話してる!」と驚かれる感想がすごく多かったんです。前回マイナビニュースさんに取材していただいた時もそこを面白がってくださったので、やはり、「過去の出演者との共演など、タイムリープ自体を面白がることに間違いはないな…」と確信に変わりました。そこで、当時の出演者さんとの会話のラリーを可能にする形にしました。

――劇団ひとりさんは、前回は自分の言葉をパズルのようにパートにはめていく感じだったのに対し、今回はそこがフリーにできたとおっしゃっていました。

前回は当時の出演者とやり取りできる部分が限られていて、まるでドラマを撮るような感じになっていたので、そこのストレスを解消するのは今回かなり頑張ったポイントです。

――そうした部分においては、先輩からアドバイスをもらったのですか?

そうですね。安島さんとともに、番組作りを教えてもらっているのが『高校生クイズ』などクイズ番組をずっとやられている河野(雄平)さんなのですが、演者さんのストレスを少なくしながら、当時の出演者との会話をどうやって増築させるかという2本立ての課題のアドバイスをすごくもらって、収録までいろいろ考えていました。

その中で、クロマキーのスタジオに当時の出演者の方のパネルを用意して、演者さんの気持ちを上げる工夫をしたり、当時の司会者は未来を知らないので、「YouTuberのふくらPです」と自己紹介したら「YouTuber? 何かの生き物ですか?」って聞いたり、そうした楽しませ方も用意しました。

  • クロマキーのスタジオで収録される『クイズタイムリープ』(C)日テレ

「間違いを楽しむ」から「正解を面白がる」へ…クイズトレンドの変化

――前回は『クイズ世界は SHOW by ショーバイ!!』が登場したものの名物の「ミリオンスロット」がありませんでしたが、今回は導入されましたね。

五味(一男、『SHOW by ショーバイ!!』総合演出)さんから「ミリオンスロット」のこだわりをお聞きしたので、今回はぜひ使いたいと思いました。

前回も取り入れたかったのですが、流れの中で必然性がなかったので断念したんです。今回は年末ですし「懐かしいな」と思ってもらえるように、ミリオンスロットが必要になるストーリー作りを準備して入れさせてもらいました。

――これはどこかの放送回のミリオンスロットの画を切り抜いて使っているのですか?

新しく作ったほうが速いので、作りました(笑)。アーカイブ映像から「◯◯萬」の画面をそれぞれキャプチャしてスロットのシステムを作って、演者さんが押したタイミングでサブコン(副調整室)で押すという形です。

――ちゃんとガチのスロットになっているわけですね。ほかにも進化している点は、いかがでしょうか。

前回は1時間番組で今回は2時間なので、現代の出演者をチーム分けして長尺の団体戦にしました。それと、CGの規模感もアップしています。前回は、合成するのにウエストショットがやりやすいということで基本的に解答席に座る形にしたのですが、『アメリカ横断ウルトラクイズ』の後楽園球場での「◯×クイズ」というロケにも挑戦しています。

ロケにも応用できると、クイズ以外でもスポーツ対決だったり、それこそロケ番組だったりに落とし込めると思ったので、ここはどうしても頑張りたいなと思って技術チームとも入念な打ち合わせをして挑戦しました。

――収録を拝見した時点では仕上がりのイメージが湧かなかったので、放送上でどうなっているのか楽しみです。このように編集が一つの肝になる番組ですが、一番大変な作業は何ですか?

当時の解答者との会話を見せるために、アーカイブ素材から横の人に話しかけているシーンのベストを、ものすごく探しました(笑)

――それは大変ですね! AI音声で会話するのではなく。

より生身な肉声で行けると思ったところは、まずそこを頑張ろうと思っているんです。ただ、当時は解答者同士のトークのカットが短くて…。だからなかなか見つからなくて大変です(笑)

そういう作業をして感じたのは、新しく収録した映像も、過去のアーカイブと同じ素材の一つだということなんです。通常の番組収録は、ある程度決まった順番で決まったものを撮るという形だと思うのですが、『クイズタイムリープ』は収録も素材集めという認識。その集めた素材の中で新しい料理を作っていくという感覚が、この番組は新しいなと思って編集を進めています。

――今回は現代の出演者に、阿部亮平さんやふくらPさんなど、各局のクイズ番組で活躍する人たちが参加していますが、彼らが苦戦しているシーンが意外でした。

五味さんとミーティングさせていただいた時に、今は「正解を面白がる」クイズが増えてきている一方で、当時は「間違いを楽しむ作り方をしていた」というお話を聞いたんです。だから、いい意味で制作側と演者さんの“対決”で、誤答の面白さを引き出すことを大事にしようと思って作りました。そのため、今のクイズ番組で活躍される皆さんにとって、その違いの難しさがあったのかもしれないです。

――30年でクイズの文化が変わっているのが分かるというのも面白いですね。今回は、当時の解答者(レジェンドカード)の方がタイムリープして、過去の自分に声をかける場面もありますが、あそこは少しジーンとくるものがありました。

ベースとしては「懐かしい」があるのですが、仕上がりが「新鮮」になるようにするのをすごく意識しています。懐かしさはアーカイブ素材から出てくるので、仕上がりの新鮮さをどう注入していくかというのも、第2弾のテーマでした。そうした点で、今の自分と過去の自分が対戦するというところも意識したところですね。

――そして今回の収録ではミラクルが起こりましたね。

はい、サブコンの全員が立ち上がりました(笑)。河野さんには「入念な準備をしたからこそ奇跡が起こるんだ」と言っていただき、苦労が報われたと思いました。このミラクルはぜひ楽しみにしていただきたいです。