• 波瑠

――テレビドラマのお仕事をしてきて、特に印象に残る俳優さんを挙げるとすると、どなたになりますか?

『魔法のリノベ』で、波瑠さんがすごく良かったですね。あのドラマが難しかったのは、クライマックスがプレゼンのシーンになるんですよ。例えば、離婚もののドラマだったら、クライマックスでケンカしたり感情のぶつけ合いになるから、生っぽい言葉が書きやすいと思うんですけど、営業ってやっぱりフォーマルな場所なので、あんまり言葉で遊べないんですよね。波瑠さんが演じた小梅というキャラクターは職業意識が高くて、お客さん向けの言葉をちゃんと言う人だから、そこが結構悩ましかったんですけど、ある種崩せなかったセリフの一言一言に表情を付けてくださったから、一見平坦に聞こえるセリフでも「そういう色の付け方があるんだ!」って感動したんです。

――コメディの勘といったところは、いかがでしたか?

笑わそうとするんじゃなくて、必死でそれをやるとか、全力で向かってるとか、マジでやってることが角度を変えると非常に間抜けに見えるっていうのがコメディだと思うんですけど、そこの肌感も備えてらっしゃいました。コメディシーンをコメディっぽくやる人はいっぱいいるし、それはそれで1つの方法なんですけど、波瑠さんはどのシーンも一貫して「小梅」というキャラクターを真摯(しんし)に演じていらした印象で、プレゼンの場面のシリアスなシーンとコメディシーンも自然とつながるし、コメディシーンではとてもチャーミングに見えるというのがありました。

■『リバー、流れないでよ』貴船一帯で撮影できた理由

――原案・脚本を手がけた映画『リバー、流れないでよ』が公開中ですが、「2分間のループから抜け出せなくなってしまった人々の混乱を描く」というユニークな構成はどのように発想されたのでしょうか?

わざわざ映画館に足を運んでもらってまでお客さんに何かを見せるときに、僕らは演劇でもそうしているんですけど、“奇襲攻撃”を仕掛けるという作戦がありまして。(ヨーロッパ企画長編映画第1弾の)『ドロステのはてで僕ら』とか、今回の『リバー~』は、“知らない人たちが何か極端なものを作ってて、珍しいけど面白いらしいぞ”という風にして興味をひこうと、なるべく企画性が尖ったものをやるようにしてるんです。

そんな中、『26世紀フォックス』で誘ってくれたフジテレビの野崎(理)さんという方がずっと僕らと仕事をしてくださっていて、最近では『サマータイムマシン・ハズ・ゴーン』(21年)という時間モノの短編集を作らせてもらったんですけど、テレビの場を使って実験的な作品作りをしてきた中で、時間モノを映画にすることは自分たちに向いてるかもしれないと思ったんです。僕らの劇団の拠点でもある京都はいい風景が撮れるし、映画だから海外に出品することを考えてもいい場所だなと。それと劇団なので、群像で芝居をするとか、カットを細かく割るより長く芝居をするというほうが僕らの得意技でもあるとか、いろんなことを考えてこの形になりました。

――ロケ地である京都の貴船はすごく良いロケーションですよね。

貴船は主演の藤谷(理子)さんの地元でもあるんです。彼女が所属してる劇団ということで、なんとなくヨーロッパ企画を知ってくださったりしたご縁もあって、料理旅館や神社をお借りできて、周りの建物や道沿いも撮影で使わせていただけることになったりと、全面協力いただきました。夏は繁忙期だから冬に撮影させてもらってたんですけど、コロナ明けでインバウンドのお客さんが結構いらっしゃって、なかなか大変でした。

  • 『リバー、流れないでよ』

――貴船一帯が大規模に撮影協力してくれた事例は、ないのではないでしょうか。

見たことないですよね。あそこまで協力していただけたのはすごいことだと思いますし、関係性によってカメラが入っていける、というのはテレビも同じかもしれないなと思いました。撮影隊って基本的には“招かれざる客”というか、なかなか打ち解けないとカメラが入れない場所っていっぱいあるんです。場所じゃなくても、例えば芸人さんが慣れたディレクターさんや作家さん、共演者じゃないと見せないノリがあったりして、コミュニケーションでたどり着ける奥の奥が出てる番組のほうがやっぱり面白いじゃないですか。それは映画も一緒で、この風景を撮るとか、この俳優さんにこういう表情を見せてもらうというのは、やっぱり信頼関係の果てにある景色なんですよ。京都の貴船っていうのは直感的に選んだんですけど、他のチームだったらもしかしたらここまでいい画は撮れなかったのかなと思いますね。