――こういう冒険番組は、1回のロケ準備に相当準備がかかると思うのですが、そもそもロケハンはされるのですか?
まず東野さんをどこに登らせたいか、どこに連れて行きたいかというのを、冒険家さんと相談しながら決めるんですが、そのコースは基本的に冒険家さんにお任せで、ロケハンはやりません。
撮影も普通のバラエティロケのように技術会社ではなく、全部山岳カメラマンにお願いするので、「こういう画は必ず欲しい」というのだけ伝えると、どんなところにも対応してくれるんです。実際にそのカメラマンもすごい人たちで、「この撮影終わったら、来週からパキスタンなんですよ」なんていう名登山家の人もいたりして、別の回で冒険家としてゲスト出演してくれたこともあります。
――それに対応できる山岳カメラマンの人は、たくさんいるわけではないですよね。
むちゃくちゃ貴重です。去年、1人お世話になってたカメラマンがデナリ(米アラスカ)で亡くなって、あれはショックでした…。
――機材も専門のものになってくるのですか?
そうですね。でも、僕はバラエティのときからそうだったんですけど、しっかり撮れてるものが良いものなのかな?っていう疑問があって、ちゃんと撮れてることでリアリティがなくなることもあると思うんです。
なので撮れてないところは撮れてないで割り切ったり、グラグラの画をわざと使ったりしますね。しっかり撮れてて「簡単なルートなのね」って思われるのも嫌なので、カメラマンには基本的に三脚もいらないと伝えてます。
――百戦錬磨のチームとは言え、これまで危機を感じた場面はありましたか?
絶対死なないんですけど、特に怖かったのは断崖絶壁を登るところですね。150~200mの岩が切り落ちた壁を登るときは、僕も一緒についていくんですけど、もう怖かったです。岩と岩の間が70~80cm開いてて、そこに飛んでしがみつかないといけないっていうのもあって。
――もうゲームの世界ですね!
本当そうなんですよ! ロープでつながってるから絶対落ちないんですけど、すげえ怖かったです。後は雪山ですね。八甲田山は忘れられないです。
――明治の軍人が遭難したところですもんね。
本当ですよ(笑)。それはプライベートだったんですけど、面白い画が撮れると思ってよく知ってるプロのカメラマンを1人だけ入れて、東野さんと木村さんと僕で行ったんです。そしたら猛吹雪になって、その最中に出会ったスキーを履いたおじいちゃんが「避難小屋まで連れてってあげるよ」って言ってくれたんですけど、そのスキーの跡をたどって行ってる中、雪がどんどん強くなってきて前も見えないし、ついに頼りにしていたスキーの跡が消えちゃったんです。そこで一瞬「あれ、これは遭難かな…」ってよぎるんですけど、みんな思ったまま言わず、黙々と歩いていくんです。
――認めたくない心理ですね。
それでも木村さんとプロのカメラマンがなんとかアプリで避難小屋を探してくれて、着いたときは本当にホッとしました。
■制約のある民放より、低予算でも配信で自由に
――『アドベンチャー魂』は3月で終了しましたが、今後は引き続き配信の『東野登山隊』で冒険を続けていくという感じでしょうか。
そうですね。プライベートでも登ってますし、東野さんと『東野デニム』っていうYouTubeもやっているのですが、それをやりながら「次はどの山行こうか」って話をしてます。
――登る山は無限にあるという感じですか?
ありますね。ただ、危ないところはガイドさんにお願いして、それだったら撮影したほうがいいのでカメラマンを入れますが、僕らだけで行くときは関東近郊のしっかりした登山道があるところを行くと決めています。それと、(カンニング)竹山さんにもかわいがっていただいて、4月から福島テレビで竹山さんが旅をする番組(『カンニング竹山の福島のことなんて、誰もしらねぇじゃねえかよ!』)が始まりました。
――やっぱり旅なんですね。もうお笑いのバラエティから、完全に旅や冒険にシフトしていくという感じでしょうか?
50のおっさんが面白いと思うVTRなんて、視聴者誰も笑わないと思うんですよ。シフトというより需要の問題です(笑)
――先ほど言っていた、ディレクターができる年齢は限られているという話につながりますね。
そうですね。僕が若い頃に見ていた『元気が出るテレビ』とか、『(オレたち)ひょうきん族』(フジテレビ)とかのディレクターとか総合演出の年齢って、20代・30代がほとんどだったので、それより上のおっさんは受け入れてもらえないんじゃないかっていうのが勝手に自分の中で印象としてあるんです。あと、視聴率とかのプレッシャーがかかった仕事をしたくないっていうのもあるかもしれないですね。そっから逃げてるだけという。
――でも、そこで冒険に活路を見い出されたと。
そうですね。仕事先行ではなく、プライベートでやって面白かったことがつながったんです。
――それって、ものすごく幸せな状態ですよね。
ありがたいですよね。一番はやっぱり東野さんと仲良くさせてもらってるのがデカくて、だから仕事になってるんだと思います。自分がどうこうより、東野さんが興味を持ってくれたので、ラッキーでした。
――とは言え、配信では予算も限られると思うのですが、冒険のロケとなるとやり繰りも大変なのではないでしょうか?
もちろん民放に比べると予算は全く違いますが、全然足りなくて何もできないという感じではないので、不満は一切ないです。地上波になると数字に左右されて、局から「ゲストを入れないと」って要請されたりいろいろあると思うので、こうやって配信でやらせてもらってるほうがいいのかなと思います。おっさんが山登ってるだけですからね(笑)
それに、趣味が先行して成立してるので贅沢言わないです。普通の番組で東野さんを深夜に車両で長野入りさせるとかまずあり得ないですから(笑)。民放だったらそれなりのランクの芸能人の方には、いいホテルを取って控室にするとか、アテンドをしっかりしますが、そんなのは一切ない。
――車で雑魚寝ですもんね(笑)
あんなのは本当にダメなんですけど(笑)、マネージャーさんも同行されないんで、安くやれてるんですよね。あと、東野さんには本当申し訳ないんですけど、演者さんは僕らと同じ量の荷物を持ってますから。登山番組ではなかなかあり得ないと思います。
――「よーいスタート」で担ぐんじゃないんですね。
演者の荷物をスタッフが持つなんてこともないですし、なんなら僕が一番体力ないので「椎葉、それ持ってやるよ」とか「椎葉が遅いから3人で分けて持とうか」って木村さん、庄司さん、東野さんが持ってくれて「すいません」って言ってます(笑)。東野さんは「山入ったら、先輩も後輩もなしや」って言ってくださるので。