――長年NSCの講師をやられていますが、若い芸人さんの最近の傾向はどのように見ていますか?
講師になった14年前は『(爆笑)レッドカーペット』(フジテレビ)全盛期だったので、みんな短いネタを作るのは上手いけど、長尺ネタは下手で、ショートコントを合わせただけのネタが散見されました。ですが、霜降り明星が『M-1(グランプリ)』(ABCテレビ)でチャンピオンになって、“第7世代”が一気に出てきくると、みんなショートコントから漫才に移行し、長尺ネタも巧みになっていきました。
そして今は、TikTokや『有吉の壁』(日本テレビ)などの影響もあって、みんな“切り取られて面白くなるネタ”が巧みになってきましたね。若手芸人界は1年ごとに変容していくので見ていて面白いです。一番敏感な人たちと向き合ってるのが、楽しくてたまらないですね。
――そうしたネタの傾向は分析した結果ではなく、感覚で変化していくんですね。
そうですね。やっぱり敏感なんだと思います。
――やはりYouTubeの登場によって、ネタの性質も変化していますか?
変わってきていますね。僕らの世代って、他者に向けて真剣に文字を書くのはラブレターくらいしかなかったんですよ。でも彼らの世代は、フォロワーを獲得するために毎日SNSに真剣に向き合っているので語彙力も豊かですし、幼少期からカメラの前に立つことに慣れているので、カメラが回っても億劫(おっくう)にならない、文章と動画に対するリテラシーが高いと、おのずと新種が生まれてくるんです。
例えば、昭和時代から「カツアゲ」のコントはありましたが、今の生徒は、不良にカツアゲされながら「ちょっと待って」と言って、ポケットからスマホを出して、「今カツアゲされてます!」って世界配信を始めるんです。不良に対しては「すいません、お金出すんで」って言いながら、視聴者に対しては「ボコボコにしまーす!」って強がる。1人が2つのキャラクターを演じていて、昔は不良と弱者の直線だった会話が、不良・弱者・視聴者と三角になって奥行きを生んでいるんですよね。『キングオブコント』でも、そういった奥行きのあるネタをどんどん作る世代が出てきてるんいるんですよ。
――ネタの構造が重層化してるんですね。
そうですね。自分で音楽を編集して、それに合わせてリズムネタをやるコント師もいますし、漫才はストロングスタイルの本格派も増えていますが、コントに関しては音楽や動画などのツールを使い高品質になってきています。あと、トリオが増えていて、1人女の子が入るパターンが非常に多くなってきてますね。
――それはなぜでしょうか?
やっぱり“かぶり”を消去しているからでしょうね。東京03、ジャングルポケット、ジェラードンなど、上の世代に優秀な3人組がいると、おのずと変容したくなります。女性を一人入れたほうが目新しくなる。それができるのは、女性芸人の数が増えてきたからなんですよ。昔は圧倒的に男性社会でしたけど、芸人界でも女性進出が進んでいて、男女比は東京校で7:3、大阪校も8:2くらいになっていますね。
――今はネットの登場によってYouTubeからいきなり売れるなんてこともあるじゃないですか。そうすると、わざわざ授業料を払って入るNSCの存在意義というものが揺らぐことはないのでしょうか?
そういうのもあると思いますけど、NSCに入学する人たちが何に一番魅力に感じているかというと、吉本の劇場の多さなんですよ。みんながテレビを目指しているわけではなく、舞台で自分の作品を提示したい表現したいという欲求も実は高いんです。
今、社会がどんどんバーチャルになっているからこそ、リアルなものに価値がつくという側面もあります。ずっとリモート会議をやっていると、ちょっと対面するのが楽しみになるみたいに。みんながYouTubeを見ているからこそ劇場で生で見て笑いたいということに価値を見いだしている世代が、もう始まっているのかもしれないですね。
■「俺、ヒーローになりたいです」と言ったEXIT兼近
――今後こういう番組を作っていきたいというものはありますか?
自分が育てたと言ったらおこがましいですが、見守ってきた教え子たちが、どんどんテレビ界に羽ばたいていくんです。EXIT兼近くん、ぼる塾、オズワルド、空気階段、コットン、レインボーと、すでに羽ばたいてる人もいますが、今後もめちゃめちゃ面白い逸材がテレビ界をにぎわしてくれるというのを、僕は分かってるし、たぶん誰よりも知っている人間なので、ワクワクしてますし、彼らと一緒に番組を作ってみたいですね。携わらなくてもいいから、何かしらでその枠を用意したり、できれば一緒にゴールデンへ上がるという経験をしてみたいです。
在学中、自分が彼らのために何かやってあげたなんて本当に思ってなくて、僕は彼らの横でゆっくり並走して、息を切らさないように何とかゴールしてもらった伴走者にすぎないんです。そうやって卒業してくれたので、今度はその才能がテレビという畑の中で育ったときに、僕も筆が衰えていないようにいい企画を考えようって思いますね。
――次のスターが必ず出てくるという自信があるんですね。
もう才能を見てしまってますから。まだ誰も世の中の人が知らないけど、(吉本興業の)大崎(洋)さんが、18歳のダウンタウンさんに会って「これは!」と思った感覚を、僕は実際に目の当たりにしているんです。今注目されているのは、4年目の令和ロマンより上の世代だと思うんですけど、その下の原石がすごいネタを見せてくださっているし、まだメディアに発見されていない中堅の教え子もたくさん知っているので、楽しみしかありません。
――その感覚は、どのような点で感じるのですか?
NSCは生徒が多いので、1人1人に語りかけることは難しいんですけど、生徒の前で講義していると、うなずくタイミングがあるんですよ。そのリズムで、「こいつ、会話できるな」って分かるんですね。ある年、僕がしゃべる句読点やブレスの中に、すごく相槌のリズムが上手い生徒がいたんですよ。それが兼近くんで、この子はすごくトークのセンスがあるんだろうなと思ってました。
そのときに、「君は将来何になりたいの?」って聞いたら、「俺、ヒーローになりたいです」って言ったんで、こいつ少年だなって(笑)。このピュアさがあれば芸能界で活躍するなと思ってたら、上下関係の厳しい吉本で、4年先輩のりんたろー。を捕まえて「一緒にM-1出てぶちかましましょうよ!」って言うんですから。ぼる塾の田辺(智加)さんにしても、在学中から「まあね」って言ってて、当時から女性心をくすぐる多才な趣味と才能があった。そういうところを見てますね。
――元日テレの土屋敏男さんが、お住まいの鎌倉の若い人と交流があって、刺激を受けるのが楽しいという話をされていました。
おっしゃる通りだと思います。いつの間にか僕も上の世代の方のカテゴリーに来ちゃいましたけど、逆に僕らがマイノリティーだなと思いますね。日本は少子高齢化ですが、地球上の3分の1が「Z世代」と言われる人たちなんですよ。だから、日本にいたら上から押さえつけられるシステムで肩身が狭いと思うかもしれないけど、彼らがその目を一気に世界に転化したときに、自分たちがマジョリティーだということに気づく。そのために、僕らは何をすればいいのか? その視座が僕の中にあります。
――ご自身が影響を受けた番組を1本挙げるとすると、何でしょうか?
企画という点では、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ)ですね。総合演出をされていたテリー伊藤さんと『サンデージャポン』で何度か共演させていただいているのですが、70歳を超えて「さすがにテレビ離れされているのかな?」と思っていたのに、CM中にテレビ談義を振ってきますし、「電話ボックス型のホストクラブをやったら面白くない?」など、企画もバンバン出してくる。レジェンドだなぁと感銘を受けました。
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…
先ほどもお名前を出させていただいた、堀江利幸さんです。『ぐるナイ』で堀江さんが「ゴチ」のスタッフに指名してくださらなかったら、僕の放送作家として今はないです。企画の着想も発想法も、あの頃からずっと堀江さんに影響されています。当時から毎週ご飯を一緒にしてくれて、今も誘ってくれる堀江さんをお慕いしています。