――やはりこの仕事をするようになって、普段の人との接し方も変わってきた部分はありますか?

僕、めちゃくちゃ人見知りなんですよ…。だから緊張してすごい汗かくんです。でも、毎週毎週、トゲがあっても優しい人たちと過ごすようになって、嫌なやつだなと思ってた人も、見る目をちょっと変えるといいところがあるな、とか思うようになりました。

――あんなに人と接する『オモウマい店』のディレクターさんが人見知りとは、意外すぎます。

いや、ほとんど全員人見知りだと思います。片桐さん(※)とか、全然しゃべらないですし。

(※)…中華料理屋「味のイサム」(埼玉・羽生市)のあまりの忙しさに、店の手伝いをしながら取材し、店主家族を岐阜の実家に招待し、一緒に箱根旅行もしたディレクター。

  • 黙々と編集作業する片桐ディレクター

――たしかに、日テレの特番でサンシャイン池崎さんと対談したとき、ものすごい人見知りっぷりを発揮されていました。

でも、人見知りだからこそ、店主さんと打ち解けて仲良くなると、視聴者の方が微笑ましく見てくださっているのかもしれないですね。気にしいというか、心配性なところもあると思います。だから、仲良くなるためにカメラを持たずに通うこともあるし。自分が勝手に仲良くなったと思って距離を詰めるのが、一番失敗するじゃないですか。

――いきなり詰めてこられたら引きますもんね。そういうスタッフさんを集めてる感じもありますか?

自分で言うのもアレですが、いいやつだなと思う人が入ってくる感じですね。総合演出も人見知りなので、新しいADさんの面接でもほとんど会話がなくて、「唐揚げ好き?」とか聞いて、「あの子は優しいね」って入ってくる気がします。

■足を使うからこそ実感する番組の影響力

――取材が終わると編集に入りますが、そこで意識されるのはどんなことですか?

これはもう引き算をしていくということですね。ナレーションを入れて、何の料理かを説明して知ってもらった上で実物を見せるのがオーソドックスな編集だと思うんですけど、『オモウマ』だといきなり料理がバン!って出てくるところから見せて、「何これ? 何これ?」というのを面白がる。その突発感や引き算をしたことによって生まれる臨場感を、すごく大事にしています。

あと、ハサミを入れないほうがいいという感覚なので、どれだけ長いカットでも見られるんだったらそのまま見せちゃおうってなります。徳島の「たかはし」さんというお店を紹介したんですけど、チャーハンが普通盛りで19杯分くらい入ってたんですよ。普通ならご飯を盛る画を十何回も見られないと思うんですが、「見れる見れる」ってなって、そのまま入れたんです。素材をあんまり料理するより、そのままが一番面白いという考えがありますね。

――「味のイサム」の回でも、花火大会にみんなで繰り出して、屋台で何買ってくるか決まらない様子を延々と流し続けたじゃないですか。あれは本当に衝撃でした。

あれはすごかったですよね。たしか、片桐さんもオフライン(仮編集)では入れてなかったんじゃないかな…。

――総合演出の判断で入れることもあるんですね。

この前放送した、ハワイの夕日が落ちるときのグリーンフラッシュの撮影に失敗したら、ディレクターとしては隠したいんですよ。本来はミスなのでなかったことにしたいんですけど、総合演出の2人がADのちっちゃな映像も撮影してきた素材から全部見てるんで、担当ディレクターが気づかない面白いカットが入ることが結構あるんです。

――1回あたりの撮影素材の量は人によって違うと思いますが、北山さんの場合はどれくらいですか?

僕の場合は自分の手元のカメラと、別に1個置いてるくらいなんで、そんなに何カメも回さないんですけど、それでも128GBのSDカード十何枚は行きます。そうすると、200時間分くらいですかね。みんなの素材は全部ハードディスクに入れて残してるんですけど、その棚はもうとんでもないことになってます(笑)

  • 膨大な量の映像素材が記録されているハードディスク群

――それは全部見返すのですか?

そうですね。画だけじゃなくて、お店にいたときには気づかなかった音も入ってたりするんですよ。「裏でこんな面白いこと言ってたんだ」って気づくことがあるんです。同じ瞬間でカメラが違うと拾ってる音もあるので、全部聞きますね。

――そんな作業をして、名古屋で編集して、東京のスタジオ収録に出すんですね。

だいたい木曜日が収録なんですけど、日曜日にインサートを撮って、月曜日に素材チェックして編集に入って、火曜くらいに1回長い形になって、水曜に削って直して、木曜の朝に名古屋を出るという感じです。ギリギリまでやってるんで、だいたい8時半の新幹線に乗らないと間に合わないんですけど、8時19分くらいまで編集してダッシュで行くのが毎回で、新幹線でちょっと休んで。

――あのVTRができるまでに、そんな大変な作業をされていたとは…。それを続けられる原動力は何ですか?

テレビの影響力ってこんなにあるんだというのを実感できるので、やってて楽しいですね。それと、向き合ってるお店の人たちが楽しみにしてくれているのが大きいです。「面白いもん作ってやるぞ!」というより、「店主さんが喜んでくれるかな」とか「ちょっとここイジるけど許してくれるかな」とか思いながら作って、放送が終わった後に電話する瞬間が一番楽しいんですよ。「良かったよ」と言ってくれるだけで、全部報われます。

――OA後に大勢のお客さんが集まる光景に、ヒロミさんも「やっぱテレビってすげえなあ」とよくおっしゃいますが、改めて影響力を感じますよね。

それで忙しくなってしまうのは申し訳ないと思うときもあるんですけど、今まではグルメ番組を見て食べ物目当てに行くというのはあったと思うんですが、人に会いに行くってなかったじゃないですか。それと、取材中にいろんな街でカメラを回していると「オモウマい店ですか?」と声をかけられることもあって。足を使う番組だからこそ影響力を肌で実感できるのは、すごく楽しいですね。

――番組がスタートして4月で2年になりますが、番組の知名度が高まったことで、取材を受けてくれる感じに変化はありますか?

テレビに出たことがあるお店さんだったら、普通の番組ならレポーターが来て半日で全部の取材が終わるのが当たり前の中で、『オモウマ』は1週間通い続けるので、怒られたことも結構ありました(笑)。でも、最近は番組を理解してくださっている方が多いので、長くいても何も言われないようになりましたね。認知度が広がってきた中で、「うちは『オモウマ』に出るような店じゃないよ」と言う方も結構いらっしゃるんですけど、ご本人たちは気づかないんだなあと思います。

――あれ、本当に不思議ですよね。

だから、わざとものすごいサービスをやってないことの裏付けでもあるんです。お客さんが、「あ、やっと来た」とか「ここ出ると思ってたんだよ」というお店もよくあります。それと、ありがたいことに、取材NGでも「番組が嫌いだから」という理由は聞かないですね。