注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、中京テレビ『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(日本テレビ系、毎週火曜19:00~)の北山流川ディレクターだ。
破格の値段や量の料理もさることながら、何より個性爆発の店主たちのキャラクターが魅力の同番組。時には、スタッフが家族同然に溶け込む姿も名物だが、意外にも北山Dを含めて「ほとんど全員人見知り」なのだという。そんな彼らが、なぜ店主と打ち解け、奇跡の出会いを起こすことができるのか。
そして、このインタビュー中にまさかのあの人が――。
■おばあちゃんと同じ名前で取材OK
――当連載に前回登場した元テレビ東京の上出遼平さんが、「『オモウマい店』で“これは最高だ”と思ったシーンを撮った男なんです。それは、取材した店のOAをその店で一緒に見るということ。これって、誠実に番組を作ってる人間じゃないと絶対にできないことなんですよね。それを流川くんは何の気なしにやったらしいんです。この抜けた感じもすごいし、かなりリスペクトしています」とおっしゃっていました。
初回に放送させていただいた「珉珉」(茨城・日立市)さんというお店なんですけど、本当に狙ってたわけではないんです。どういうふうに見てくれるかなということで、総合演出の加藤(優一)と竹内(翔)と話して、「じゃあ、一応カメラ持ってちょっと行ってみるか」という感じでした。元々取材NGからご縁でOKを頂いたお店だったので、ご迷惑をかけてないかなと…心配しながら行ったんですけど、自分の店のOAを見るのはこんなふうに映るんだと思いました。
――お客さんがサービスを断ろうとするとママの鈴子さんが「騒ぐじゃねえ」と怒りだす姿は、初回放送の一発目としてインパクトとともに、番組の方向性が出ましたよね。『オモウマい店』の元になった『PS純金』のシリーズでも、OAを一緒に見る様子を放送するというのはやっていなかったのですか?
放送が終わった後にちょっと手伝いに行くというのはありましたけど、一緒に見るのはなかったので、初めてでした。
――「珉珉」さんは、どのように出会ったのですか?
番組が始まる3カ月前ですね。僕は茨城・千葉が担当エリアで、日立という街が栄えていそうだと思って行ってみて、路地裏を歩いていたんですよ。そしたら「珉珉」という看板がいい味を出していて、扉を開けてみたらそこに鈴子さんがいたんです。で、ご飯を食べさせてもらおうと思って、「五目焼きそばください」って頼んだら、「ダメだよ。鶏(焼きそば)にしろ」と言われて、すぐ「はい」って答えたら、それが好印象だったみたいで。
食べさせてもらったらおいしくて、夫の店主さんも人柄が良さそうだったので取材交渉したんですけど、当時創業53年で1回も受けてないって言われて。1回映画の舞台になったことがあるんですけど、それにも鈴子さんたちは出てなくて、ダメかと思って「お名前だけ聞きたいです」と言ったら「鈴子」とおっしゃって、「僕のおばあちゃんも鈴子なんですよ」と言ったら意気投合しまして(笑)
――何が決め手になるか分からないもんですね(笑)
ただ、その後の取材中に、「やっぱり嫌だ」「うちじゃなくていいから」と言われてしまったんです。それでも、「おふたりのことが好きだから、これを伝えたいんです」とお願いしたら、改めてOKをもらったという感じですね。
■「取材しに行くという気持ちはやめなさい」
――まず取材の流れについて伺いたいのですが、担当エリアを割り当てられてリサーチが始まるのですか?
初期はそれがあったんですけど、今はどこでもよくなってます。結構自由で、ディレクターが面白そうだなと思ったお店があれば、どこに行って何を撮ってもいいんですけど、決まっている収録日までには面白いものやいい店主さんと出会ってきてね、という感じです。
――面白そうな店というのは、まずネットで調べるのですか?
最初はネットで調べることが多いですけど、1軒気になるお店があったら、その町に3日くらいいるんですよ。そこでとにかく聞き込みをしたり、ちょっと外観が良さそうだったら入って食べてみたりして、1日4~5軒食べ歩いてお話を聞いて、出会いを待つという感じですね。
――担当エリアを決めないと、ディレクター同士のかぶりはどうやって回避しているのですか?
いや、誰がどこに行ってるのか、全然知らないんですよ(笑)。OAで見て「川添さん、ハワイ行ってるんだ」とか、「同じホテルに昨日泊まってたよ」みたいなことも本当に結構あって。
――そうすると同じお店に行ってることもありますよね。
僕が行ってNGだったお店に他の子が行ってOKだったことも、その逆もあります。それは店主さんとの相性とか、「駐車場の白線が薄い」「店の前にお花がある」といった切り口とかで、本当にパズルがハマるような感じなんです。
――ディレクターさんと店主さんが“人と人”で向き合ってることを象徴する話ですね。でも、店前にお花が飾られていると、みなさん「店前にお花が飾られているお店はオモウマい?」の川添Dに一報入れますよね。
そうですね。一応許可取らないといけないなと思って(笑)
――いいお店と巡り合うために相当回られていると思いますが、最長で見つからなかったのはどれくらいですか?
30軒でようやく1軒見つけたというのがありました。
――「このお店は行ける」という手応えはどんなところで感じるのですか?
『オモウマい店』ってドキュメンタリーなので、第三者目線の番組なんですけど、そこに巻き込まれていくスタッフがいて、主観と客観が混同する瞬間があるんですよ。そこで、「今、振り回されてるな」と思ったときですね。“撮りに行ってる”じゃなくて、“映ってるな”と感じたときに「行ける」と思います。やっぱり、自分が計算できてないと思ったときのほうが撮れ高があります。
――よくテーブルに置いていたハンディカメラをガサッと持って撮り始めるシーンがあるじゃないですか。あれはまさに、計算できないことが起きた瞬間なんですね。
そうですね。あとは、店主さんそれぞれに哲学みたいなものがあって、それが話を聞いているときにうまく言葉になって出てくると、VTRの最初に出る「オモウマい! ◯◯なお店」ってキャッチになるので、そこが決まる瞬間があると、いいVTRになるなと思います。
ちょっとすいません。緊張で汗が止まらなくて…。
――どうぞどうぞ拭いてください。お店を取材するときも、かなり緊張されるほうですか?
そうですね。
――鈴子ママは圧がすごそうなので、より緊張するのでは。
最初に「騒ぐじゃねえ」って言われたとき、本気で怒られたと思って、後で改めて謝りに行きましたから(笑)。でも、それがみんなに言ってるんだと気づいたときに、この人の哲学だと思って、いいVTRになりそうだなっていう感覚です。自分が巻き込まれたことが他のところでも起きていたら、その方の本質だと思うので。
――『オモウマい店』の取材で特に苦労されるのは、どんな点ですか?
名古屋が起点なので、移動がやっぱり大変ですね。インサート(物撮り映像)を撮ってくれるカメラマンさんに、「移動距離はもう地球何周もしてる」って言われました。
それは身体的な苦労ですが、店主さんたちとどう向き合えば良いのかというところは、一番気をつかいます。最終的には家族のようになるんですけど、仲良くなりすぎてもいけないと思っていて、ディレクターと取材対象者という関係は崩さないという線引きは意識してますね。そこが崩れちゃうと、どんどん内に入ったVTRになっちゃうので、あくまでも客観を守るというところが、難しいです。鈴子さんで言うと、お年玉とかお小遣いとか渡そうとしてくるので、それは絶対に受け取らないようにしています。
――ただ、普通の番組より入り込みすぎるところが醍醐味でもあるので、そこのさじ加減も難しいところですよね。それにしても、本当にディレクターの皆さんが家族のように溶け込むのがいつもすごいなと思っていて。何か共有されているノウハウはあったりするのですか?
それが全くないんですよ…。ただ、演出の加藤、竹内からは「取材しに行くという気持ちはやめなさい。会いに行くという感覚でいなさい」というのを徹底されています。だから、お店に着いたらカメラを置いちゃうし、話を聞くときもカメラを通して相手を見るんじゃなくて、腰くらいまでカメラを下げて目を見ています。変な画角になってるかもしれないけど、だんだんそこからでも撮れる感覚が分かってきました。
――新人の子が入ってきたら、いつも教えることはあるのですか?
「身を任せなさい」ということですかね(笑)。それと、取材させていただいている方の何が素敵なのかをまず考えるということ。何が尊敬できて、すごいと思ったのかを一番大事にしていれば、面白いというのは後でついてきますから。そうやって店主さんを好きになると、興味がわいてくるんです。どんな過去があって、何で大盛りになったのか。そうやって取材を重ねていくと、尊敬できる先生のような人たちが全国にいるという感じになりました。
――取材最終日の別れ際に、店主さんに「結婚式呼べよ」と言われることがよくあるじゃないですか。北山さんは、やはり呼びたいですか?
そうですね。スピーチとかしてもらいたいですよね。1個のテーブルが全員店主さんだったり、お色直しで再入場するときに店主さんたちと手つないで出てくるとか、そんなことができたらうれしいです。
――その様子をカメラに撮って、またOAになるところを見てみたいです(笑)