公式戦がそのまま対人の研究になる
では、局面の理解を深めるにはどうしたらいいのでしょうか?
――今の話とつながるかもしれませんが、対局相手の豊島先生は勉強の仕方を少し変えて、対人対局の機会を増やしたと言われています。昨年、伊藤匠先生もAIの研究だけではなく、人と指してみることで理解が深まるということをおっしゃっていました。藤井先生も同じ考えでしょうか?
藤井「それはそうです。定跡を見ているだけではなかなか理解が深まらないですし、対局するにしてもソフトと指すという方法ももちろんあるんですけど、人と指したほうが、お互いの指し手の意図がぶつかり合う形になるので勉強になるところは多いかなと思います」
――なるほど。人間の場合は文脈というか、理由があって指しているので、自分の持っている文脈にも影響が出やすいと言うか。
藤井「そうですね、はい」
――対人で勉強する割合を増やしたい、または減らしたいということは今はありますか?
藤井「いや、今は特にないです。これまでもそうでしたが、4月以降も公式戦がコンスタントにあると思うので」
――なるほど。実戦が対人の機会になるということですね。
局面の理解というのはAIの評価値ではなく、それを人間の言葉に翻訳して汎用化したものなので、人と対局することで自分の理解と相手の理解が衝突し、より深化させることができる、ということなのでしょう。だから豊島先生との王位戦で角換わりを繰り返すうちに、理解を深めることができたわけですね。
「定跡作成」がAI的、数学的、量的なものであるのに対して
「局面の理解」は人間的、言語的、質的なものであると言えそうです。
そしてその2つを掛け算した面積が「強さ」になるのだと思います。 図で示すとこんな感じです。
藤井先生はこの面積を横方向と縦方向の両方に日々広げていっているのだと理解しました。
たまに、将棋はAIの暗記ゲームで藤井聡太は暗記力が高いから勝っているだけという人がいますけど、この話を聞くと全然そうではないことがわかります。
藤井先生が「将棋はそんな単純なゲームじゃないんだよ」ということを示してくれたように思います。
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