定跡を超えたとき、指針をもって判断できることが重要

次のテーマは「局面の理解」です。藤井先生の口から何度か出たことがあるフレーズなので、聞いたことがある方もいるかもしれません。

以下のやり取りをご覧ください。
豊島先生との第63期王位戦七番勝負(2022年6月~9月)についてのお話です。

――王位戦を振り返っていかがでしたか?

藤井「この王位戦はすべて角換わり、特に角換わり腰掛け銀になりました。シリーズを通して戦型に対する理解を深めることができたと思います。中盤以降も難しい将棋が多く、自分としては収穫の多いシリーズだったかなと思っています」

――最近先生のお話の中で戦型に対する理解、あるいは序盤の局面に対する理解が深まったということをよく聞くように思います。局面の理解が深まるというのはどのような状態のことでしょうか?

藤井「そうですね。局面とそれに対応する指し手を知っているということだけではなくて、その局面において自分で判断の指針を作って指すことができるということが重要かなと思います。そのためには、ある程度経験も必要で、そういう意味でも王位戦で角換わりを多く指してつかめた部分はあったと思っています」

――判断の指針を立てることができる状態、というのは……(考え込む)。

藤井「何と言うか、角換わりなどは定跡化が進んでいて、そこを抜けた後が非常に難しいことが多いので。逆に、指針が立てられないと何もわからなくなってしまう、ということはあります」

――判断の指針というのは形勢判断のことでしょうか?

藤井「形勢判断もそうですし、その後どういう方針で指すかということですね」

――なるほど。言語化できているというか、最善手を知っているだけではなくて、その後相手にどんな手を指されても大体対応できる状態というか。

藤井「そうですね。局面の急所というか重要なポイントをつかんでいる、ということですかね」

――だから定跡の範囲を超えられても大丈夫、ということにつながっていくんでしょうか。

藤井「現状では大丈夫、ということはないんですけど(笑)、そういう状態になればいいとは思っています」

――深いですね。ありがとうございます。

長く引用しましたが、局面の理解ということがなんとなくお分かりいただけたかと思います。
局面の重要なポイントをつかんでいれば、そこから類推して、定跡を外れた未知の局面でも対応できるわけですね。