小山さんが必ず食べる「わさびいなり」
ふくあじ旅もいよいよ終盤。次にお二人が向かったのは、博多の中心地から車で30分ほどの距離にある閑静な住宅街。そこに、小山さんが30年近く通っているというお店「鮨おさむ」があります。
本格的なお寿司のお店ですが、ここに来たとき小山さんが必ず食べるというのが「わさびいなり」。店主の武藤修さんが33年前に考案したおいなりさんで、熊本産の南関揚げという大きな油揚げを使い、仕込みに6時間かけて丹念に作るのだとか。しかも酢飯を油揚げで包むのではなく、わさびを合わせてから油揚げで巻いて握るそうです。お店で実際に使っている南関揚げを見せてもらった山口さんは、その大きさに驚きつつ、油抜きや味付けなどの下ごしらえの方法を興味津々で聞いていました。
小山さんと山口さんが注文したのは、もちろんその「わさびいなり」。一口食べた山口さんは、目を丸くして思わずうなってしまうほどのおいしさだった様子。食感がふわっとして、わさびもマイルドで、油揚げの甘味とわさびの香りが絶妙なのだとか。小山さんの「今までの、おいなりさんの概念が変わる」という言葉に、山口さんも「全然違う」と頷きながら賛同していました。
この「わさびいなり」、お店で締めに注文する人が多いそうですが、持ち帰りも可能。お取り寄せもできるので贈り物にもよさそうです。小山さんも手土産用に箱詰めしてもらっていました。
60年以上にわたって継ぎ足してきたダシがしっかり染み込んだ絶品おでん
そんな絶品おいなりさんの余韻も冷めやらぬ中、次にお二人が向かったのが今回の“ふくあじ旅”の最終目的地である「名代おでん 安兵衛」。創業63年の老舗で、2代目店主の小笠原亮介さんが初代の味を今に受け継いでいるそうです。
暖簾をくぐると、店内いっぱいに立ち込める、おでんの香ばしい匂いに食欲がそそられます。お店は創業時からの歴史と伝統を感じさせる調度品があちらこちらにあり、まるで昭和にタイムスリップしたようなノスタルジックな雰囲気。その場にいるだけで、あたたかな気持ちに満たされてきます。小山さんと山口さんも、席に座るなりすっかりリラックスした表情。
大将の亮介さんによると、おでんのダシは初代の頃から60年以上にわたって継ぎ足してきたものだそう。いろんな具材の旨みが積み重なって濃く黒い色になっていますが、見た目とは異なり味はあっさりしているのだとか。ちなみにダシは昆布とかつお節をベースに、濃口しょうゆで味をつけた関東風のもの。鶏がらや薄口しょうゆを使う関西の「関東煮」や「関東炊き」とは異なり、具材にも肉類を入れていないといいます。
おでんダネは、自家製の材料を使ったキャベツ巻きやガンモ、米のとぎ汁で下茹でしてから煮込む大根、殻付きのまま煮込んでピータンのような色になった玉子など、どれも手間をかけてこだわり抜いたものばかり。小山さんと山口さんは白ワインを片手に、ダシがしっかり染み込んだおでんを幸福そうな表情で味わっていました。まさに“ふくあじ”!
ひとしきり食を楽しんだあと、小山さんと山口さんは、大将に先ほど絵付けした手製の提灯をプレゼント。今年で83歳を迎えたという大将は、思わぬサプライズに驚きつつも大喜びし、さっそくお店の神棚に飾りつけていました。
と、そこで3代目の息子・豪さんからも小山さんと山口さんにプレゼントが……。今年還暦を迎えたお二人を、ちぎり絵で作ったグリーティングカードとイチゴたっぷりのケーキで祝福! 実は豪さんはお子さんが生まれたとき、小山薫堂さんの名前から1字をもらって「堂」と名付けたという縁があるそうです。まさかのサプライズ返しに、小山さんと山口さんはこぼれんばかりの笑顔で喜んでいました。