2番目に注目されたのは20時37分で、注目度79.1%。賢子(南沙良)が『源氏物語』によってつくられた人生観をまひろに打ち明けるシーンだ。
帰京し生家へもどったまひろは、夜も更けたころ、自室でひとり太宰府で起こった様々な出来事を思い返していた。「母上の物語、読みました。いくども」娘の藤原賢子は、母の横に腰をおろすと、そう言って穏やかに切り出した。「帰ってきたらどう思ったか聞かせてと言ったこと、覚えていてくれたのね」母娘は照れながらもお互いに笑い合った。「人は何なのであろうかと、深く考えさせられました」まひろは無言のまま、娘の言葉に耳を傾ける。
「母上は私の母上としてはなっていなかったけれど、あのような物語を書く才をお持ちなのは、途方もなくすばらしいことだと敬いもいたしました」賢子にとってかつての「母」と『源氏物語』は、母が娘の自分をかえりみずに没頭し続けた、憎むべき対象といえるものであった。しかし、女房としての経験を経た賢子は、母とその作品の偉大さに敬意をはらえるほどに成長したのだ。
娘からの思いがけない称賛だが、幼い賢子を構ってやれなかった罪悪感もよみがえり、まひろは少し居心地が悪い。「されど、誰の人生も幸せではないのですね。政の頂に立っても、好きな人を手に入れても、よい時はつかの間。幸せとは幻なのだと、母上の物語を読んで知りました」賢子は母の紡いだ物語から、人の世のはかなさを知ったという。「どうせそうなら、好き勝手に生きてやろうかしらとも思って、さっき光るおんな君と申したのです」まひろは実の娘でありながら、自分にはないさっぱりとした風情をもつ賢子をうらやましいと思う。「よいではないの」まひろは心底そう思った。「好きにおやりなさい」道長(柄本佑)への想いを抑え込んで生きてきたまひろにとって、賢子はひとすじの希望となった。
「賢子の語る『源氏物語』の感想、共感しかない」
このシーンは、まひろ・賢子母娘のガールズトークに注目が集まったと考えられる。
賢子はまひろが生涯をかけて執筆した『源氏物語』を何度も読み込んで、人生ははかないものだと知った。そして出した答えが「光るおんな君」としてやりたいことをやってやろうというものだった。ネットでは「賢子の語る『源氏物語』の感想、共感しかない。胸に刺さるわ…」「『誰の人生も幸せではないのですね』ってセリフですごい泣けた」「ダメな母親と源氏物語を書いた大作家をしっかり切り分けて評価する賢子ちゃんは聡明だね」といった、賢子の達観したセリフに多くの反響があった。
「賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ」と言うが、賢子はその名のとおり優れた資質の持ち主のようだ。まひろと賢子の母娘関係は一時は非常にこじれていた(※賢子は今でも根に持っている節があるが 笑)。しかし、まひろが父・藤原為時(岸谷五朗)と徐々に分かり合っていったように、賢子も母・まひろを理解できるまでに成長した。かつてまひろの弟・藤原惟規(高杉真宙)が言い残したとおり時間が解決してくれたのだ。
好きなようにやってやろうと宣言した賢子だが、史実では藤原道長の次男・藤原頼宗(上村海成)や藤原公任の長男・藤原定頼、さらに源朝任など数々の公卿と交際を重ねていたと伝わる。属性としてはあかね(泉里香)寄りだ。
そして、なんと『光る君へ』での設定上では、賢子にとっては祖母の仇である藤原道兼(玉置玲央)の次男・藤原兼隆と結婚する。兼隆とはのちに離婚し、高階成章と再婚、1054(天喜2)年には従三位にまで昇進し、少なくとも1078(承暦2)年ごろまで生きたそうだ。「光るおんな君」のこれからの人生を、スピンオフで見たいものだ。