3番目に注目されたシーンは20時32分で、注目度79.1%。太閤・藤原道長が剃髪するシーンだ。
道長は妻・源倫子の強い反対を押し切り出家することを決めていた。道長は髷をほどかれ、いよいよ剃髪の運びとなった。部屋にはひどく憔悴した倫子をはじめ、太皇太后・藤原彰子、皇太后・藤原妍子(倉沢杏菜)、中宮・藤原威子(佐月絵美)ら道長の3人の娘たちや、道長の後継者である摂政・藤原頼通とその弟・藤原教通(姫子松柾)の姿もあった。
ついに道長の髪が落とされると、倫子の目から涙が落ちた。道長本人もこれまでの生涯を振り返り頬を濡らした。父の政に翻ろうされ続け、恨みすら抱いたこともある彰子は懸命に涙をこらえている。彰子と同じく父のこれまでのやりように反発してきた妍子と威子も、それまでは無表情であったが、いざ父の髪に刃があてられると心が揺さぶられ目を見開いた。やがて剃髪は終わり道長は僧形となった。こうして位人臣を極めた道長は仏門に帰依し、俗世とは関わりのない身となった。
まひろが完全に手の届かないところへ去ってしまった絶望感
ここは、出家に至る道長の心情と、剃髪を見届ける家族の表情に関心が集まったと考えられる。
『光る君へ』では、これまでにも出家した人々が描かれてきた。藤原兼家(段田安則)や花山天皇(本郷奏多)、藤原定子(高畑充希)、一条天皇(塩野瑛久)、三条天皇(木村達成)など多数に及ぶが、その多くは出家をすることで、死後に極楽浄土へ渡れるよう祈願してのものだった。作中での道長は、健康上の問題もあるが、まひろが完全に手の届かないところへ去ってしまった絶望感から出家を決意したように描かれた。道長は「行かないでくれ」と、まひろにすがった手を離されたように、倫子が出家を思いとどまるように懇願してすがる倫子の手を突き放した。そして、剃髪し現世を捨てる日を迎える。
SNSでは、「道長、どれだけ年をとっても子供のころの恋心を忘れなかったんだな」「三行半と隠し子カミングアウトのダブルパンチはそりゃショックだよ」「道長くん見ているとと涙が止まらなかった」「今までよく頑張ったよな。道長お疲れ様」「『道長くんはさぁ…』と『道長くんおいたわしい』は両立するんだよね」と、全力で政争に身を投じた道長へのねぎらいのコメントが多く見られた。
道長の出家を見守る子たちのキャスト陣も、それぞれの性格やこれまでの道長との経緯を含めて、その複雑な心境を表情のみで見事に表現していた。また、今回の出家のシーンでは、なんと柄本佑が約1年半もの撮影の間伸ばしてきた地毛を剃ったということで、その役者魂にも称賛の声が集まっている。このような出演者たちの迫真の演技によって、本シーンは間違いなく『光る君へ』における名シーンの1つとなったのではないだろうか。富と権力をほしいままにした道長だったが、心の底から求めたものはとうとう手に入らなかった。まひろのいなくなった京で、道長はこれからどのように過ごしていくのだろうか。