――今回のコラボレーションによって、それぞれが培ってきたノウハウや流儀が共有されて、また新しい表現が生まれるということも期待できそうです。

金川:僕らはこうやってお話を聞かせていただくだけでもすごく学びになりますが、いろいろ掛け合わせていくことによって、文化が混じり合って面白いものが生まれてくると思うんですよね。「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」は、いろいろなものが混ざって面白い渦になっていくような、作り手たちにとって面白い場所にしていくということも、すごく大事なことだと思っています。もちろんユーザーに何をどう届けるのかということを軸に話して、みんなで喧々諤々(けんけんがくがく)とやっていこうと思うのですが、そういう場所が実はあまりなかったのではないかと思って。

西村:そうですね。今回の取り組みは改めて新しいことをやっているんだなと思っていて、ドキュメンタリーという近いことをやっているように見えるけど、結果、異文化交流になったじゃないですか。今回面白かったのは、ディレクターさんが取材後記といった形でテキストの記事を書いているんですよ。だいたい2,000字というオーダーをしてるんですけど、それを頼んだ時のテレビマンたちの拒否感たるや(笑)。「明日までにこの映像を10分に編集してください」という依頼をすれば、皆さん全然きっとやってくれるんですけど、「1週間後に2,000字でお願いします」というのには頭を抱えるんですよ。それでも、書き始めたらすごくいい記事になっているんです。やっぱり自分にとって思い入れがある作品ばかりなので、フタを開けたら3,000字になっているなんてこともありますから。あれは、ディレクターにしか書けない文章になっていると思います。

金川:しかも結構泣かせてくれるんですよね。『わすれない』の原稿もそうですが、1人の人を十数年追いかけることなんて、なかなかできないじゃないですか。その中で変化もあるのですごく読み応えがあって、価値がある。本当に感情を揺さぶられました。

  • 『わすれない 放射能から逃れた少女の10年』(C)フジテレビ

西村:やっぱり新しい取り組みをするにあたって、ここにしかない魅力があるものが一番いいと思っているんです。『ザ・ノンフィクション』のレギュラー放送のような長尺のドキュメンタリーを作るって、最初の一歩がなかなか踏み出せないんですけど、今回出す映像は1本10分ほどなので、若い制作者も「ちょっとやってみたいな」となってくれたらいいですよね。そこから、新しい可能性を広げていく場になれば。

――制作者の裾野を広げていくという役割にも担うことになりますね。

金川:若いクリエイターさんを増やしていこうというのは、これまでもやってきた取り組みで、そこからテレビ番組になった事例もあるんです。テレビに枠がなくてそこに入れる人がなかなかいないから、ドキュメンタリー制作者が高齢化だけしていってしまうと、業界としてはやっぱりよくないと思うので、「まだADで頼りないかもしれないけど、まず10分作らせてみようか」と実験ができるような場所になっていくと、私たちもうれしいです。取り組み自体は小さいかもしれないけど、波及効果は大きいんじゃないかと期待したいですね。

――これまでの実績で、その可能性を感じる部分もあるのでしょうか。

金川:場を提供するだけで、信じられない才能って出てくるんですよね。札幌国際短編映画祭で3分のショートドキュメンタリーを募集するMicro Docs部門というのをやったのですが、旅館でバイトしながら、今まで見たことのないようなとんでもない映像を作ってきた子がいたんですよ。だから、場を用意して、そこを頑張って維持すれば、それは私たちがコントロールできないものかもしれないけど、とんでもない財産になっていくのではないかと思います。

――ドキュメンタリーは役者さんをブッキングしたり、スタジオセットを建てたりする必要がないですから、個人で始められるという点で裾野は広げやすいですよね。

西村:仕事の帰り道に駅前で見かけた人からネタを見つけて始まる企画というのも『ザ・ノンフィクション』はいっぱいありますから。『ザ・ノンフィクション』って実は20代の制作者も結構いて、ドキュメンタリーの制作会社の若手たちが「『ザ・ノンフィクション』やりたいです!」って企画書を持ってきてくれるんです。ただ、彼らに教える世代が空洞化しているのも事実。今はいい企画があったら何とかみんなで形にして放送しているんですけど、放送できるのは年間40本強なので、そういう面白い芽をみんなで育てて、みんなで楽しむようになったら、みんな幸せだと思うんですよね。

金川:良い人材が育てばコンテンツ自体が魅力的になるのは、間違いないですからね。

――「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」としては、『ザ・ノンフィクション』との取り組みからスタートして、今後をどのように展望していますか?

金川:フジテレビさんのようなパートナーと他にも組んでいき、コンテンツを増やしていきたいと思っています。まずは年間100本ぐらいは作っていこうという話をしていますが、ドキュメンタリーをやりたいという人たちは、いろんなところに散らばっていると信じているので、実際にどれくらいの本数になるかは読めない部分もあります。そこはドキドキしているところですね。


フジテレビ情報制作局情報制作センターの内ヶ崎秀行部長は、今回の取り組みへの期待について、「最初に取り組ませていただく番組は『ザ・ノンフィクション』なのですが、日々の『めざましテレビ』や『めざまし8』などでも、市井の人を取材する若い制作者が500~600人いるんです。ホストクラブの売掛金を払うために自分の体を売ってお金を稼いでいる女性と毎週のように会って話を聞いているけど、テレビだと数十秒しか出せない。でも、『Yahoo!ニュース ドキュメンタリー』で少しずつ映像や記事を出すことによって、彼女の人生を変えられるかもしれない。『ザ・ノンフィクション』で1本の題材になる人なんてほとんどいないですが、実は貴重な取材対象者はたくさんいるんです。そこに光を当てていく足がかりにもしていけたらと思っています」と展望を語っている。


●金川雄策
2004年より全国紙の映像報道記者として、東日本大震災、熊本地震、パリ同時多発テロ事件、ブラジル・リオパラリンピックなど国内外の現場で取材。情報をより早くわかりやすく伝えることに重点が置かれるニュースの限界を感じ、より深く伝えられるストーリーや映像の可能性を信じて、NY でドキュメンタリーフィルムメイキングを学ぶ。17年にヤフー(現・LINEヤフー)へ入社し、クリエイターズプログラムやDOCS for SDGsの立ち上げに従事。22年、ドキュメンタリーの教科書を作りたいと『ドキュメンタリー・マスタークラス』を玄光社から出版。特定非営利活動法人Tokyo Docs 理事・一般社団法人 デジタルジャーナリスト育成機構 理事。現在は、Yahoo!ニュース ドキュメンタリー チーフ・プロデューサーとして従事。

●西村陽次郎
1974年生まれ。大学卒業後、都市銀行を経て、99年にフジテレビジョン入社。ドキュメンタリー、情報番組、『逮捕の瞬間 警察24時』などを担当し、現在は『ザ・ノンフィクション』チーフプロデューサーのほか、バラエティ番組も担当、『だれかtoなかい』の総合演出を務める。