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――今回のテーマは、令和の時代を生きる人々の記録を残すという意味で「#令和アーカイブス」と設定されていますが、この狙いは。

西村:『ザ・ノンフィクション』は2021年4月に放送1,000回を迎えたのですが、その時に、これまで番組が何を伝えてきたのかを検証するドキュメンタリーを放送したんです。そこで振り返ってみると、その時代を生きる人たちの映像記録、そして「心」を記録してきたというのが、この番組の持っている特徴であり、やってきたことだと改めて感じました。なので将来、「令和の人々はあんな時代を生きていたんだ」と記録に残るようなものを出したほうがいいと思いました。

 最近はそうでもなくなってきましたが、僕らテレビメディアは1回放送したら基本終わりなんです。でも今回のような取り組みは、Yahoo!ニュースさんがある限り残っていくと思うので、そこできちんと令和を生きる人たちを描いて記録を残すという企画は、Yahoo!ニュースさんと一緒にやる意味がとてもあると思って提案しました。

金川:我々としては、『ザ・ノンフィクション』が作ってきたその時々の記録という強いコンテンツをインターネット上にアーカイブしていくと、見え方が少し変わってくるところがあると思うんです。インターネットメディアとしてドキュメンタリーを棚出ししていくとどうなっていくのか、ワクワクしています。

――そうしたテーマに沿って、3月10日現在で『ひとりで産むと決めたから~未婚の母が生きる道~』『新宿二丁目の深夜食堂~名物ママ 54年目の閉店~』『花嫁のれん物語2024~能登半島地震 若女将の苦悩~』『わすれない 放射能から逃れた少女の10年』『塙山キャバレー物語~母と娘 20年ぶりの再会~』が配信されています。このうち、『花嫁のれん』は新作ですね。

西村:近年放送した話題作に加えて、今後『ザ・ノンフィクション』で続編や新作を作るもので、タイムリー性のあるものを先に配信していくという場にもしたいと考えています。今回の話が始まった当初は、3月からスタートするということで、東日本大震災の被災者を追ってきた『わすれない』シリーズから、原発事故で福島の南相馬市から9カ所も住まいの移動を繰り返した絵理奈さんのドキュメンタリーを配信することが決まっていたんです。そしたら、今年の元日に能登半島地震が発生しました。

金川:それで西村さんが、「『わすれない』というシリーズもありますが、能登で言うと長期取材をやっている『花嫁のれん』というシリーズがあって、今現場に取材が入ってるんです」という話をポロッとされて、「それをこの取り組みでぜひやっていただけないでしょうか!」と無理を言ってお願いしたら、「できますよ」と言っていただいて。週1でドキュメンタリーを作ってらっしゃるからそういう感覚なのかもしれないですが、その返しがカッコよくて(笑)。そういうことで、「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」の最初の作品になりました。

西村:『花嫁のれんは』は担当ディレクターの大里(正人)さんが18年にわたり取材をされていて、地震が起きてすぐ「続編をやりたいです」と提案を受けたんです。63歳のディレクターさんで、最近は国内最高齢のストリッパーのシリーズ(『私が踊り続けるわけ』)という名作を作られて、『ザ・ノンフィクション』に対してもうやる気満々で(笑)。それで取材に行ってもらったら、和倉温泉の「多田屋」という旅館なんですけど、館内のモニターがたくさんあるので、地震発生時の映像記録がたくさんあるんです。あれを見て、衝撃を受けましたね。

金川:本当にグッと被害が近くなる感じがありましたね。ぜひ多くの人に見てもらいたいです。

  • 『花嫁のれん物語2024~能登半島地震 若女将の苦悩~』(C)フジテレビ

ネットとドキュメンタリーの親和性は

――フジテレビとのコラボが決まる前に、「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」を立ち上げることになった狙いは、どういうものだったのでしょうか?

金川:Yahoo!ニュースではこれまで、個人のクリエイターさんのドキュメンタリー制作を支援する活動をやってきました。2018年から始めて、これも10分くらいの短尺で300本以上の作品を出してきたのですが、ドキュメンタリーを作っていらっしゃる方は本当に必死で、すごく情熱をかけて撮られるんですよ。それに対して、私たちとしてももっともっと多くの人に見てほしい気持ちがずっとあって、どうやって社会に広げていけばいいのかと考えたときに、コンテンツパートナーと手を組んで一緒にやっていくことを始めようと思いました。

――2018年から始めて、インターネットとドキュメンタリーの親和性という点での手応えはいかがでしたか?

金川:実は最初は難しいかなとも思っていたのですが、Yahoo!ニュース トピックスに掲載されている記事の中でも、ドキュメンタリーで追っている記事はすごく深みがあるんです。1本にかけるコストもかかってますし、その人の人生をより深く掘り下げているので、被写体の強い言葉や訴えかける強い思いが他の記事と比べて突出したものが出てくるわけですよね。そうするとすごく読まれますし、ユーザーからの評価もすごく良かったりすることもあるので、やってみたらやっぱり届くものは届くんだと分かってきました。

――『ザ・ノンフィクション』については、先ほど西村さんが「ネット上で新しいことに挑戦すると地上波の番組にいい形で跳ね返ってくる」とおっしゃっていましたが、YouTube、FOD、TVerで傑作選や見逃し配信を進めて、その手応えはいかがですか?

西村:『ザ・ノンフィクション』は一般の方を取り上げていますが、その人にとって放送後にマイナスの反響が出ることもあり得るので、ネット配信に関してこれまでは慎重でしたが、多くの取材対象者が「見逃し配信」を認知してくれ、全国で見られることを希望する方も多いので、去年から可能なものはTVerとFODで無料の見逃し配信をやっています。再生数はどんどん伸びており、始めた頃は、話題作でも前・後編合わせて20万を超える作品がいくつか出る程度だったのが、先月放送した『僕を産んでくれたお母さん~言葉を失ったママと家族の4年~』(2月18日・25日放送)は57万再生を超えました(※3月7日現在)。関東ローカルで有名人・芸能人も出てこない長尺ものという中では、特筆すべき数字だと思っていますし、魅力的なコンテンツをちゃんと送り出せば、若い方も含めて広い世代が見てくれるんだと思いました。

――さらに、今回の取り組みによってネットでの出し口がまた一つ広がるということですね。

西村:また新しいところに広がっていくといいなと思いますし、全国には『ザ・ノンフィクション』を見られない方もいっぱいいるので、番組のことを知ってもらえたらいいと思います。そもそもネットユーザーは「ドキュメンタリーだから」という「ジャンル」で見ているわけじゃないと思うんです。「なんか面白いのがあるよ」という感覚で映像に接していると思っています。その中で、ネット上のチャンネルが1つ増えるのはすごくうれしいし、ありがたいし、どういうことになるのかなととても興味があります。