――憧れのヒーローから言われたことは忘れないし、守ろうとする。そんな子どもたちにとっての「ヒーローが与える影響力の強さ」を知っているからこそ、宮内さんは『V3』の予告編(本放送時)で「そして、今週のお約束!」と前置きして、子どもたちに「歯をみがく」「外で遊ぶときは自動車に気をつける」「危険なアクションのマネをしない」など、いろいろなメッセージを贈っていたのですね。
僕自身が直接、子どもたちに何か約束事を言ってたわけじゃないんですよね。むしろ、テレビ画面の向こうから、メッセージを伝えられたらいいなと思っていました。劇中で風見志郎やV3が「少年仮面ライダー隊」の隊員たちと触れ合う機会があるじゃないですか。彼らライダー隊員の向こうに、テレビの前にいる子どもたちを想像しながら芝居をしていたところはありますね。
――ヒーローの影響力が悪い方向に行けば、子どもたちも悪くなってしまいます。宮内さんはヒーローを演じているときは常に子どもたちの「視線」を意識されていたとうかがいました。
子どもが見ているところでは、ぜったいに酒は飲まない、タバコは吸わない、横断歩道を渡る。『V3』の後も、ヒーロー作品をやっている間はずっとそういう気持ちでいました。
――放送当時、仮面ライダーV3/風見志郎の人気は絶大でした。あのころ、子どもたちからファンレターが送られてきたなんてことはありましたか。
子どもたちからの手紙はたくさん届きましたよ。ぜんぶ平仮名で書いている手紙が多かったな。僕も嬉しいので、子どもたち全員に「平仮名で」返事を書いて送りました。
――『V3』終盤を盛り上げるべく、元デストロンの科学者・結城丈二(演:山口暁)が変身する「ライダーマン」が登場しました。宮内さんとしては、こちらの新キャラクターについてどう思われましたか。
ドラマとしては盛り上がり、ライダーマン/結城丈二もいいキャラクターになってくれましたが、最初はイヤだなあって思っていました。この番組は『仮面ライダーV3』なんだから、余計なライダーはいらないなってね(笑)。最初のライダーマンは敵ではないが味方でもないってことで、山口くんとはロケバスでも端と端にお互い座って、最初のころは口もきかなかったんです。ふだん仲良くなってしまうと芝居の仕方が変わってしまいます。だから弁当も一緒に食べなかった(笑)。やがて、結城が風見志郎の仲間になってからは、山口くんとも打ち解け、一緒に酒を飲んだりしていました。
――1974年2月9日、ついに『V3』が最終回を迎えました。全52話、1年にわたって風見志郎を演じ、目を見張る危険なアクション・スタントをこなしてきた本作が終わったとき、宮内さんの心にはどのような思いがめぐりましたか。
終わることが決まったと知らされ、助監督だった長石多可男と一緒に歌舞伎町へ飲みに行き「なんで終わるんだ~」なんて悔しい思いで泣いていたことがありました。人気があるのなら『V3』で2年、3年と続ければいいじゃないか、とも思ってましたね。
――主題歌「戦え!仮面ライダーV3」は宮内さん(とザ・スウィンガーズ)が歌われて大ヒットしました。宮内さんに歌唱を指導されたのは、エンディング「少年仮面ライダー隊の歌」や、挿入歌「不死身の男」「V3のマーチ」なども歌われた水木一郎さんだったとうかがっています。数々のアニメ・特撮ソングを歌い、世界的にも有名となった水木さんですが、惜しくも2022年12月6日にこの世を去られてしまいました。水木さんと宮内さんはとても親しくされていたそうですが、出会いはやはり『V3』がきっかけだったのですか。ぜひ宮内さんによる、水木さんとの思い出をお聞かせください。
主題歌のときも、特に詳しいことを説明されずに「コロムビアへ行ってこい」と言われ、レコーディングスタジオへ行くと菊池俊輔先生がいらっしゃいました。菊池先生は丹波さんのマージャン仲間で、僕も大変お世話になった方でした。そうして「じゃあ、行ってみようか」と、いきなりレコーディングが始まったのですが、何ぶん急なものですから歌えと言われても上手く歌えない。そんなこともあって、すでに来ていた水木一郎が僕と一緒に廊下へ出て、「あ~か~い、あか~あい、赤い仮面のV3♪」と、メロディを少しずつ分けて教えてくれたんです。それ以来、ステージショーで僕は出演、彼は主題歌と、コンビで行動することが多く、仲良くしてきました。いつも美味い酒を飲み、ワイワイと語り合って、楽しかったなあ。50年がすぎた今でも、マジンガーZや仮面ライダーV3をはじめとするアニメ・特撮作品が多くの人々から愛されているのは、水木一郎が生涯かけて歌い続けてくれたおかげですよ。彼の功績は、大変なものだと思います。
――改めて『仮面ライダーV3』が生誕50年を迎えたことについて、現在のお気持ちはいかがですか。
はい! こうして50年前に心を戻し、風見志郎の思い出をふりかえってみると、今の自分もまた風見志郎とイコールだなって思いましたね。いつでも「変身」できますよ(笑)