◆消費電力測定その1(グラフ223~230)

次はおなじみ消費電力測定。テスト項目そのものは速報版と同じであり、Dhrystone/Whetstone(グラフ223)、CineBench R23(グラフ224)、TMPGEnc Video Mastering Works 7(グラフ225)、LINPACK(グラフ226)、3DMark FireStrike Demo(グラフ227)、Metro Exodus PC Enhanced Edition 2K(グラフ228)の各々の消費電力変動と、それぞれの平均値(グラフ229)及び待機時電力との差(グラフ230)となる。

  • グラフ223

  • グラフ224

  • グラフ225

  • グラフ226

  • グラフ227

  • グラフ228

  • グラフ229

  • グラフ230

一見して改めて確認できるのが、Raptor Lake 2製品の消費電力の高さである。TMPGEnc Video Mastering Works 7など、Core i9-13900KとCore i5-13600Kが全く同じ消費電力になっていて、なんじゃこれはという感じであるが、やはり突出しているのがCore i9-13900K。Core i5-13600KとCore i9-12900K、Ryzen 9 7950Xが大体同じあたり(アプリケーションによって多少上下アリ)で、その下にCore i5-13600Kが来て、一番消費電力が少ないのはRyzen 5 7600Xである。この傾向はグラフ229なり230を見れば分かりやすいだろう。「Core i9-13900Kに比べればRyzen 9 7950Xはまだマシ」というのは、何というか色々しんどいものがある。

勿論これ、設定次第なところはある。例えばRyzen 5 7600X/Ryzen 9 7950Xだったら、Precision Overdriveを無効にするだけで大分違うし、Core i5-13600K/Core i9-13900KならAdaptive Boost Technologyを無効化すると、もう少し現実的な消費電力になる。問題はこうした「電力供給にゆとりがある限り突っ込む」設定がデフォルトになっている事ではないかという感じだ。まぁ定格で見る限りはグラフ230の様に、Core i9-13900Kは他に比べて100W近く消費電力の上乗せがある。Core i9-13900Kの高い性能の代償であり、性能/消費電力比を無視してこのデフォルト設定にするか、もう少し性能を控えめにして性能/消費電力比を向上させるか、はユーザーの選択である。

◆消費電力測定その2(グラフ231~233)

アプリケーション動作時の消費電力とは別に、そもそもRaptor LakeなりZen 4コアなりの動作周波数と消費電力の関係はどうなのか、を確認してみる事にした。方法は以前と同じであり、Intel系CPUならIntel Extreme Tuning Utility、AMD系CPUならRyzen Masterを使って動作周波数を変化させながら、AIDA 64のStress Testを掛け、その際の消費電力と可能ならコア温度を測定するというものだ。温度測定はCoreTemp(Version 1.17.1)を利用したのだが、このバージョンだとRaptor Lakeは正常に測定できたのだにAMD系CPUは途中から変な値を示し始めたので、コア温度測定(とSocket Powerの測定)はRaptor Lakeのみである。

テストに利用したのは

  • Alder Lake:Core i9-12900K(ここのデータを流用)
  • Raptor Lake:Core i9-13900K(今回測定)
  • Zen 3:Ryzen 7 5800X(お倉入りしてしまったZen 3 Deep Dive記事用に測定したもの:環境はこちらと同じ)
  • Zen 4:Ryzen 7 7700X(今回測定)

4つのデータである。Ryzen 9 5950XとかRyzen 9 7950Xを使わなかったのは、1ダイでの測定にしたかったからという理由である。またAlder Lake/Raptor LakeではE-Coreは無効化してP-Coreのみで測定を行っている。

  • グラフ231

  • グラフ232

  • グラフ233

さて、グラフ231が生の消費電力である。これはWatts up? Proを利用したシステム全体の消費電力である。何故かRaptor Lakeが30倍未満に動作周波数を下げられなかったので、スタートは3GHzからになっている。ちなみにAlder Lakeは50倍でThermal Throttlingが発生、Raptor Lakeは56倍でリセット、Zen 3は確か46倍でブート失敗、Zen 4は50倍でThermal Throttlingが発生となっており、この手前で打ち切っている。

さてグラフ231で見るとRaptor Lakeがすごく高い様に見えるが、そもそもマザーボードもメモリも異なっている同士で絶対的な消費電力で比較してもあまり意味はない。本当は800MHzあたりとの比較をしたかったのだが、Zen 3とRaptor Lakeのデータが無いので、とりあえず3GHzを基準にした際の消費電力の増え方を示したのがグラフ232である。ここから

  • Alder Lake(Intel 7)はここから4.8GHzまで伸びる中で、消費電力が急上昇する。
  • Raptor Lake(Intel 7+)は、3.9GHzあたりで消費電力がなぜか急増するが、その先の上がり方は緩やかであり、Alder Lakeよりも少ない消費電力で800MHzほど動作周波数の上限が上がる。
  • Zen 3は4.5GHzあたりまで単調増加 ・Zen 4は4.9GHzまで伸び、しかも消費電力の上がり方がZen 3よりゆるやか

という特徴が見て取れる。要するにIntel 7+は確かにIntel 7より性能/消費電力比が向上して見えるが、Zen 3(TSMC N7)→Zen 4(TSMC N5)も同じように性能/消費電力比が向上しているし動作上限も増えている。そして3GHzからの比で言えばIntel 7+と比べても十分消費電力が低い。実際Ryzen 9 7950XとCore i9-13900Kの消費電力を比較すればこれは明白である。

最後にCoreTempでパッケージ温度を測定したのがグラフ233である。勿論これはクーラーの能力によっても変わる訳だが、今回360mmラジエターの簡易水冷キット(Thermaltake TH360 ARGB Sync AIO Liquid Cooler)を利用しており、一般ユーザーがこれ以上強力な本格水冷キットを導入するのはちょっと難しい事を考えると、パッケージ温度が95℃を超える5.6GHz駆動前後が動作周波数の限界ということになりそうだ。

考察、ピーク性能と電力効率どちらを重視するかで選ぶ

ということで長々とレポートをお届けした。時期を逸した感は無くも無いが、

  • Ryzen 9 7950XとCore i9-13900Kの性能はほぼ互角。どちらが上というものでもない。強いて言えば、100W余分に消費電力をブッ込めるCore i9-13900Kの方がピーク性能は上だが、同じ消費電力で比較したらRyzen 9 7950Xの方が性能は上。
  • Core i5-13600Kは、性能的にはCore i9-12900Kに比肩する性能を発揮するが、消費電力もほぼ同等。価格は安いが性能/消費電力比で言うと微妙なところ。
  • Ryzen 5 7600Xは、明らかにCore i5-13600Kよりも性能は落ちるが、その分消費電力も明確に少ない。これも同じ消費電力で比較したら、Core i5-13600Kと互角か上回っているかもしれない。Power HungryなCPUを避けたいユーザーには、今回の6製品の中では一番お勧めできるCPU。

といったあたりになる。内部構造で言えば、Zen 4はやはりMicroOp Cacheの大容量化と広帯域化が一番の改良点(+AVX512のサポートだが、こちらはコンシューマ向けにはあまり普及していない&IntelがCoreシリーズでサポートを外した事を考えると、Ryzenのメリットにはならない気もする)であるが、これによってRaptor Lakeをキャッチアップした感がある。逆に言えば違いはその程度。Raptor Lakeはキャッシュ周り以外は完全にAlder Lakeと同じであることが確認できたし、要するにこれまで説明されてきた事が改めて確認できた感じだ。

直近の価格で言えば、いずれも2023年4月2日調べで、

・Core i5-13600K(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BCDR9M33/):\46,949
・Core i9-13900K(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BCF54SR1/):\84,980
・Ryzen 5 7600X(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BF4XS27Z/) :\37,172
・Ryzen 9 7950X(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BF5BBBXS/) :\96,768

となっており(さらに直近の週明け、この記事の掲載日付近だと、なぜかRyzenが急に高騰気味だが)、割といい感じの価格である。IntelとAMD、どちらが良いかというのはもう完全にユーザーのお好みで、という事になるかと思う。

少し癖のある選択肢として、Raptor Lakeには「Core i9-13900K」が、Zen 4にも「Ryzen 9 7950X3D」と「Ryzen 9 7950X3D」があるが、4月2日調べの価格は以下の感じである。通常版の各CPUとの性能比較は、Ryzen 9 7950X3Dをテストしたこちらのベンチマーク記事や、Core i9-13900KSをテストしたこちらのベンチマーク記事をご覧いただきたい。処理性能がどのくらい上がるかだけで価格差分の価値は見出し難いものの、最高性能には「ロマン」もあるだろう。また、Zen 4のX3Dに関しては、追加コストは大きい一方で、省電力化が馬鹿にならないという「実利」もある。

・Core i9-13900KS(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BPXCRWB2/):\108,196
・Ryzen 9 7950X3D(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BXJ44R21/):\128,000
・Ryzen 9 7900X3D(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BXJ3VNGC/):\106,587

新モデルが出そろってしばらく経ち、マザーボードの値段もいい感じにこなれて来たし、あとはピーク性能なのか、それとも性能/消費電力比なのか、この2軸にてどちらの特徴を取るか……で決めて良いと結論付けたい。