久遠チョコレートの人々を見つめ続けた鈴木監督は、彼らの姿から「働くってなんだろう、生きることってなんだろう、コミュニケーションが難しいってどういうことなんだろう、そもそも障害ってなんだろうと考える機会になりました」と、学びが多いのだそう。
その中でも、「働き方のことを考えていくと、会社の働かせ方や採用の仕方とか、日本の企業がいろんな形で進めてきても、この30年、経済は停滞していますよね。でも、夏目さんは人をよく見て職人として大事にしていくので、その人がすごく力を発揮されるんです。こういうことを一般の企業でもやったら、どれだけ人が伸びて、どれだけいろんなアイデアが生まれるんだろうと思わされました」と想像する。
阿武野プロデューサーも「やっぱり、数字や書類を見てるだけで会社の経営が出来ているなどと思ってほしくないですよね。夏目さんのように、障害のあるなしに関係なく、現場に熱い視線を送る人が、日本の企業の中で枯渇してるんじゃないかと。SDGsバッジを付けて物事が変わると思ったら大間違いだと、怒りにも似た気持ちを覚えることがあります」と同調。
それを踏まえ、このタイミングでの映画化の狙いについて、「やっぱりコロナになって、人とどう結びつこうか、働くってどういうことなのかということについて、みんなすごく気持ちが揺れ動いていると思うんです。その中で、自分だけではなく、人と一緒にいることを感じながら『働くということ』について考えてもらいたい、そして柔軟な発想を持って人とのつながりや、社会について会話をしてもらいたいということで、コロナ規制の緩和が見えてくるであろうタイミングで、2023年のお正月映画にふさわしいと思って上映を始めました」と、込めた思いを明かしてくれた。
●鈴木祐司
1973年生まれ。愛知学院大学文学部卒業後、98年東海テレビプロダクションに入社。報道部遊軍記者から、岐阜支社担当、ニュースデスクなど。主な作品は『あきないの人々~夏・花園商店街~』(04)、『約束~日本一のダムが奪うもの~』(07・地方の時代映像祭グランプリ〔取材〕)、『記録人・澤井余志郎』(10)、『青空どろぼう』(10)、『チョコレートな人々』(21・日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリ)、『#職場の作り方』(22)。公共キャンペーン・スポット『震災から3年~伝えつづける~』〔取材〕で、第52回ギャラクシー賞CM部門大賞、2014年ACC賞ゴールド賞。
●阿武野勝彦
1959年生まれ。同志社大学文学部卒業後、81年東海テレビ放送に入社。アナウンサーを経てドキュメンタリー制作。ディレクター作品に『村と戦争』(95・放送文化基金賞)、『約束~日本一のダムが奪うもの~』(07・地方の時代映像祭グランプリ)など。プロデュース作品に『とうちゃんはエジソン』(03・ギャラクシー大賞)、『裁判長のお弁当』(07・同大賞)、『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』(08・日本民間放送連盟賞最優秀賞)など。劇場公開作は『平成ジレンマ』(10)、『死刑弁護人』(12)、『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』(12)、『ホームレス理事長 退学球児再生計画』(13)、『神宮希林』(14)、『ヤクザと憲法』(15)、『人生フルーツ』(16)、『眠る村』(18)、『さよならテレビ』(19)、『おかえり ただいま』(20)でプロデューサー、『青空どろぼう』(10)、『長良川ド根性』(12)で共同監督。鹿児島テレビの『テレビで会えない芸人』(21)では局を越えてプロデュース。個人賞に日本記者クラブ賞(09)、芸術選奨文部科学大臣賞(12)、放送文化基金賞(16)など。「東海テレビドキュメンタリー劇場」として菊池寛賞(18)を受賞。著書に『さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ』(21・平凡社新書)。