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若い頃に坊っちゃんヘアだった夏目さんの風貌は、40歳を過ぎて舐められないように、そしてチョコレートを教えてくれたショコラティエ・野口和男さんの姿への憧れから、ロン毛にひげをたくわえ、貫禄が出た。このような見た目のほかに、長年追ってきた中で、鈴木監督はどのような変化を感じたのか。

「最初の頃は、『“障害”という言葉で括るから良くない。障害者も健常者も関係なく一緒に頑張れば、みんなで働けて能力を伸ばしていける』と信じてやっていて、パン屋以外にも様々な業種に挑戦したんですけど、やっぱり人が付いてこられなかったりして、みんなが同じことをできるわけではないというのをすごく実感されていました」

そこからターニングポイントとなったのが、チョコレートとの出会いだった。

「『1つできる仕事があれば、それを組み合わせてやっていけばいいじゃないか』という考え方になったんです。ここで“凸凹”という言葉を使い始めて、みんな得意・不得意あるんだから、無理をしないで得意なことだけを頑張って、ちょっとずつ能力を高めていこうという形になってきましたね」

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阿武野プロデューサーは「パン屋だと火傷するし、焼き損じたら捨てないといけないし、売れ残ったら廃棄しなければならないけど、鈴木ディレクターから『チョコレートは失敗しても温めればもう1回やり直しがきくんですよ』と言われたときに、今の世の中に対してすごく深いメッセージを届けられるいいものになるなと、“バババッ”と思いまして、『きっちり密着してやろうよ!』と言いました」と、ドキュメンタリーとしての方向性も打ち出す変化だった。

ちなみに、この“バババッ”は、夏目さんが何かをひらめいたときに発するフレーズだそうだ。

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■綺麗事にならないのは「自分が苦労して身にしみている言葉だから」

そんな夏目さんの言葉で、鈴木監督が特に印象に残るというのが、「誰も排除しない」。「夏目さんは、普通に考えれば無理だと思うことも、真剣に『やるんだ』と言って、決して妥協しない。この事業を潰してしまったらみんなが路頭に迷ってしまうので、休むことなく常に頭をフル回転させているように見えます」と印象を語る。

ともすれば、夏目さんの言葉は綺麗事の理想論と片付けられてしまうところだが、そのように聞こえないのは、実際に経験してきた上で発せられることの説得力に他ならない。「誰かの本を読んで持ってきた言葉ではなく、自分が本当に苦労して現場で働いて身にしみている言葉だから、人に伝わるんだと思います」と力説した。

近年メディア等で叫ばれる「SDGs」「サステナビリティ(持続可能性)」「ダイバシティ(多様性)」といった言葉よりも、『チョコレートな人々』が可視化した久遠チョコレートの光景には、誰もが圧倒的なパワーを感じるだろう。