限定レギュラー化後は、(1)ダブルブッキングのバイきんぐ小峠を縦に分割して2番組同時出演、(2)ロケの撮影データを消失して街中の映り込み映像で取り繕う、(3)マジックのコンプラ見落としで1つのテーブルマジックを延々遠回りして見せる、(4)ドラマの予算ショートで露骨な費用削減、(5)1人だけルールを知らない恋愛バラエティに放り込まれ空気を読み違い続ける――というカオスな番組を放送してきたが、この奇抜な企画はどのように発想したのか。キーワードは「テレビのテンプレートを崩して再構築する」だ。
「もともと大学時代に演劇の脚本を書いてまして、それも普通の演劇っていうより、“演劇でできる遊び”ということで作っていた作品が多いんです。今とやっていることは全然変わってなくて、最初はそれっぽい芝居をやってるのに、実はみんなイス取りゲームをしている…みたいな、1個ギミックとか仕掛けとか、もともとあるフォーマットを崩して再構築していくものを作っていたんです。そういう目線で、エンタメだけにかかわらず、食とか広告とか物を見てメモするということを無意識的に習慣化している状況だったので、それをテレビに変えて、“テレビをこう崩して、こういう遊びをしたら面白いのかな”っていうことでひたすら企画を溜めていました」
だが、入社1年目から積極的に企画書を出し続けたものの、「君の企画は難解すぎる」と、“分かりやすさ”重視の地上波テレビとマッチせず、なかなか通らなかった。
そんな中で、深夜のチャレンジ枠というチャンスが到来。信念を曲げずに作った企画を放送してみると、その思いは視聴者にも届き、「やっぱり、こういうことを面白がってくれる余白があるというのを認識できて、良かったなと思います。あえてめちゃくちゃ分かりやすくするとか、変におべっかを使うみたいなことがどこまで必要なのかという中で、こんな企画をやってもいいんだと思いました」と自信になった。
■説明しすぎない×気づいてもらうバランスを探る挑戦
一方で、「決して、視聴者を置いてけぼりにするという意思は全くないですし、最初から最後まで見たら分かるというものを作るように心がけているんです」と強調。この説明しすぎない、かつ面白さを広く視聴者に伝えるということのバランスは、どのように考えているのか。
「これが言葉として正しいのかどうかは分からないですが、僕の中で、“右脳的な笑い”と“左脳的な笑い”のバランスを見極めることで、言語化できていない新しい笑いの感情につながるような気がなんとなくしているんです。構成を練るときに、いわゆる左脳的な構造の面白さ、説明しない面白さ、考察的な面白さでどこまで引っ張って、どこから右脳的なバカバカしさや画で笑える感じとか、いわゆるお笑いのテンプレートみたいなところを出していくのか。ここまでは視聴者にこう思ってもらって、ここで気づいてもらって、ここから加速して……みたいな視聴者目線での“感情路線”というのを、結構意識して作ったつもりではあります。今回の『ここにタイトルを入力』の見せ方というのは、そこのバランスを探るという挑戦だったような気がしているんです」
入社1年目で制作した『ハイパーハードボイルドひとリポート』では、「売れたくない」という劇団ひとりと、その不誠実な態度が許せない原田氏が取っ組み合いのケンカを繰り広げるなどして大暴れしたが、最後に「はいOKでーす!」の声から本番後の演者の素の様子を映すことによって、その番組がフィクションであることを説明した。今回の『ここにタイトルを入力』ではそれを入れない選択をしており、バランスを探った結果、より視聴者を信じて制作しているようだ。