バイきんぐ・小峠英二を縦分割して2番組に同時出演させ、監視カメラからロケ番組を作り、マジシャンがCMまたぎでトランプを切り続け、エリートサラリーマン役がパンツ一丁になり、恋の買い取りに芸人が感涙――毎週様々な企画が放送されるたびに「ヤバい番組」「イカれてる」とSNSをザワつかせるフジテレビのバラエティ番組『ここにタイトルを入力』。企画・演出を務める原田和実氏が、企画提出時入社2年目の若手だったということで、業界内でも注目を集めている。
この奇抜な企画はどのように発想して生まれたのか。また、「分かりやすさ」を追求するテレビの世界の中でどう割り切っているのか。そして、今後への展望とは。制作の舞台裏を含め、その流儀を聞いた――。
■「どれだけ変化球を見せられるか」で6回に集中
フジの企画開発枠『水曜NEXT!』で、昨年11月25日・12月2日に2週連続の番組として誕生した『ここにタイトルを入力』。原田氏は企画募集で5本を提出すると、編成からGOサインが出て、収録済みのひな壇とリアルタイムのMCが掛け合う『バイきんぐ小峠の今夜もグダグダ気分』、番組放送中に視聴者意見を反映する『バカリズムの恋のお悩み解決TV』の2本が放送された。
これ以前に、『めちゃ×2イケてるッ!』総監督で知られる片岡飛鳥氏が企画構成を務めた特番『567↑8』で放送された劇団ひとりのフェイクドキュメンタリー『ハイパーハードボイルドひとリポート』や、『ただ今、コント中。』でディレクター経験はあるものの、番組全体を仕切る「演出」を務めたのは、その時が初めて。「裁量権の大きさもそうですが、何もかも全部自分で決めていくところの面白さがありました」(原田氏、以下同)と、その魅力にとりつかれた。
この好評を受け、4月に新設された深夜のチャレンジ枠『月曜PLUS』の第1弾として、6回限定レギュラーに昇格。バラエティではあまり例がない枠組みだが、「話を聞いた段階で、6回全部違う角度から面白さを提案できたらと思って、この番組向きの枠でラッキーだなと思いました。ゴールがある分、ひたすら詰めて詰めて、どれだけ変化球を見せられるかというところで頑張って考えました」という心境で臨んだ。
『月曜PLUS』は、SNSで話題になる企画などでブランディング向上を目指しており、そこまで視聴率が求められない枠という位置づけ。「正直、会議では視聴率の話は1回も出ないですし、Twitterの反響とか、TVerのランキングの話を少ししたらもう中身の話に移るくらいなので、そういう意味では“面白い”だけを考えられる環境で、すごく恵まれているなと思います」と充実の表情で語る。
■「とんでもないカロリー」で制作したフワちゃんの街ブラロケ
毎回手の込んだ仕掛けで見るものを驚かせているが、特に大変だったというのは、レギュラー2回目の『フワちゃんの浅草のんびりツアー』。フワちゃんの街ブラロケの撮影データを消してしまい、監視カメラや野次馬の動画など映り込み映像で取り繕うというもので、「とんでもないカロリーがあったなと思います」と回想する。
「下見はめちゃくちゃ行きました。監視カメラの映像も全部こっちが仕掛けているものなので、『この角度からこう狙って…』『ここでこういうことが巻き起こって…』とか、ボケと場所の組み合わせなどを全部細かく計算して綿密に積み上げていって、編集も含めて本当に大変でした」
この中で特にSNSをザワつかせたのが、「マジックミラー号」で撮影しているカメラに、ロケをしているフワちゃんとナイツが映り込んだシーン。実は、レンタルする「マジックミラー号」がロケ当日に急きょ本業稼働することになってしまったため、このシーンだけ別日に収録している。監視カメラの日時から、ロケは3月28日に行われた設定だったが、4月7日に亡くなった藤子不二雄(A)さんの話を塙宣之がしていたのは、そのためだ。
思わぬアドリブで辻褄が合わなくなってしまったが、「あの画は絶対入れたいと思っていたんです。おかげでTwitterでもめちゃめちゃ反響が大きく、計算通りに行けて良かったなと思いましたし、労力をかけた分だけ反響があったのかなと思います」と、改めて絵力の強さを実感。
取材に協力してくれた店には、解像度の悪い映像や紙芝居で紹介することになることを念入りに説明しており、「こんなことに協力してくださった浅草という街の懐の深さはすごいなと思いますね」と感謝した。
■伊集院光のアドリブに震えた恋愛バラエティ
「収録していて一番楽しかった」と挙げるのは、レギュラー5回目の『その恋、買い取ってもいいですか?』(TVer見逃し配信中)。「一般人の恋の告白に値段をつけて買い取る」なる番組に、1人だけ内容を理解していない霜降り明星・せいやが放り込まれ、何度もとんでもない空気にしてしまうもので、「スタジオの全員で長尺のエチュード(=即興劇)をするというヒリヒリ感があって、僕はめちゃくちゃ笑ってただけでした」と振り返る。
特にこの回では、タレントたちの力量のすごさを見せつけられた。せいや以外のメンバーには、「伊集院光:今までそんなに恋をしてこなかった分、きれいな恋愛が好きなので、ピュアな告白に高値をつける」「野々村友紀子:恐妻家な一面があるので、現実的な路線や将来性を見て査定する」といった裏設定や、「LOVE STOPを使うのはものすごい決断」「ラブモニュメントが光らないのは極めてレアケース」といった肌感を資料として渡し、それぞれの役割を演じてもらったのだという。
「伊集院さんの『ここはラブストかかってるんで』とか、『せいやくんはこの番組を分かってるのと同時に、ちょっと残酷だよね』とか、1個乗せてきてくださった発言は震えましたね。ホランさんの長コメントとかもそうですけど、この回は皆さんが自分の役割をひたすらまっすぐ演じてくださって、すごくしびれる収録でした」