――後半はつらいシーンが多いですが、役の苦しみをご自身が受け止めてしまって大変だったことはありますか?

撮影中に気絶するかもと思ったのが、すごく思い出に残っています。

――入り込みすぎて?

はい。涙が止まらなくなってしまって、スタッフさんに背中をさすってもらうくらいの状態になりました。今となっては、ちゃんと心を削れて作品に向き合えていたんだなと思うし、本当にこの作品が好きで、すべてをかける思いで挑戦しないといけないと思っていて、それができていたんじゃないかなと。後悔はないです。

――そんな状態になるほど入り込んだということですが、晴人が大きな後悔をして自分を責めるシーンは特につらかったのでは?

あのシーンで没入できていたなと思う不思議な現象があって、美咲さんのアイテムに触れた時に、今までの記憶が全部フラッシュバックしたんです。全身が晴人になった証拠というか、ありもしなかった思い出も出てくる時があって、没入完了してたんだなと感じました。個人としては、あの後悔を受け止めきれるかなって。とても悲しかったです。

――中島さんが後悔しないために心がけていることを教えてください。

後悔しないためには「思い立ったが吉日」かなと。動かなかった後悔のほうが、動いた後悔より、すごく残る気がします。

――中島さんは、監督や演出家と深く話し合うタイプなのでしょうか。

話します。ただ、今までは本質の部分を実は話せてなかったのかなということが多かったです。今回はこんな大作に選んでいただけた分、責任と恐怖があり、これを1人で背負うのは無理だなと思ったので、監督に自分の弱点や苦手なこと、人生でつらかったことや悲しかったことを話しました。監督がそれをわかってくれていたら、肩の力を抜いて自然に晴人になれると思ったので、自分からお話ししたいと打診しました。

――監督に話してよかったですか?

全然違いました。感情の解放にストッパーがかからなかったです。今までは頭の中で1人で完結してしまうというのが癖としてありましたが、共有したことによって全身で呼吸ができて、本気でこの作品に飛び込めたというのが一番の財産だったかもしれません。

――その結果、演技自体も納得のいくものになりましたか?

つらいシーンにも向き合っていかないといけないという責任と恐怖がありましたが、この作品への愛情が強すぎて、その責任と恐怖すらも愛で包めたかなって。だから中盤以降は全然怖くなかったです。深川さんの演出で、俳優としての基盤ができたなと思います。

――俳優としての基盤ができたというのは、役へのアプローチに関してでしょうか。

そうです。この作品のあとに参加した『彼女はキレイだった』も自然体で臨めたので、『桜』がその基盤を作ってくれたなと。今まで自分は構えてしまう部分があり、どうしても力が入ってしまって後悔することもありましたが、だんだんとれてきたのが『未満警察 ミッドナイトランナー』あたり。そして、『桜』でほぼ基盤ができました。今、前にちゃんと歩めているのは『桜』のおかげだと思います。