Metaは、VRをモバイルに続くインターネットの「次の形」としています。

インターネット利用の主流がパソコンだったころ、現実の世界とデジタルの世界は別個の世界として扱われ、2つの結びつきは希薄でした。それがスマートフォンの登場によって重なりを広げ、現実とデジタルが連係するサービスが登場しました。

例えば、Burgervilleという米国のハンバーガーチェーンは、スマートフォンを利用して、モバイルオーダーを最高の状態で手渡せるようにしています。利用者がオンラインで注文し、受け取り時間を指定するのではなく、受け取りに行く時にアプリの「出発」ボタンをタップします。すると、ユーザーのスマートフォンのロケーションがトラッキングされ始め、到着予想時間に合わせてタイミングよくキッチンに調理開始の通知が入る仕組みです。

  • Burgervilleが利用しているのはFlybuyのロケーションシステムです。同社の技術はレストラン店内の密を防ぐソリューションにも用いられています

そうした現実とネットが連係したサービスを可能にするのは、センサーを通じて収集される現実のデータです。センサーの塊であるスマートフォンに加えて、スマートウォッチや完全ワイヤレスイヤホンなど、私達が持ち歩くセンサーを備えた機器が増えています。

FacebookがMetaになり、AppleがARに力を注ぐのは、現実の世界とデジタルの世界が重なっていく将来に向かっているからです。次代のネットでもスマートフォンやスマートウォッチが引き続き大きな役割を果たしていくでしょう。しかし、新たなパーソナルデバイスによって、その重なりをさらに大きく、そして色濃く広げられるかもしれません。その可能性の1つとしてAR/VRデバイスが注目されています。

  • リアルな環境と仮想環境は切り離された状態で別個にインタラクトされる状態が続いていましたが、スマートフォンによって重なり、今後IoTやAR/VR機器によって重なりがさらに濃くなり、そして人々がより広い世界でインタラクトするようになると予想できます

ただ、矛盾することを言うようですが、最初のAppleのVRヘッドセットに多くは期待できません。iPhoneやiPad、Apple Watchの初代モデルは基本的な機能を備えていたのみで、しかも価格は高めでした。そうした新しいデバイスにパーツの最適化が進み、関連技術も進歩し、世代を重ねてデバイス本来の価値を発揮できるモデルが登場します。Bloombergのガーマン氏は、初代モデルはゲーム、メディア消費、コミュニケーションに焦点を当てたデバイスになると報じています。FaceTimeラウンドテーブル、Fitness+クラス、TV+シアター、Music+コンサートといった感じでしょうか。

ARは、開発中の製品について固く口を閉ざすAppleが語るのを拒まない数少ないトピックの1つです。それは過去の液晶ディスプレイ(LCD)やSSD(ソリッドステートドライブ)などと同じように、同社がコアテクノロジーと見なして投資している技術だからです。コアテクノロジーは特定の製品だけではなく、長期的に広くApple製品の進化を支えていく技術になります。LCDは、iMacでオールインワンのスリムなデスクトップを実現し、iPhoneで携帯の形を変え、様々な製品のデザインの進化や新しい利用体験を支えてきました。AR技術はすでに「Live Text」や空間オーディオといった形で製品にとり入れられていますが、同技術による新たな体験の提供はまだ始まったばかりです。VRヘッドセットはマイルストーンの1つであり、AR技術はこれからiPhoneやiPad、Macも変えていき、いずれAppleが思い描くARデバイスを形にし、その積み重ねの先にはさらに新しいApple製品があります。

  • iPhoneのカメラで写した画像に含まれる文字や数字を自動認識し、テキストに変換する「Live Text」、例えば会議に使ったホワイトボードの内容をすぐにテキスト化してメールなどで共有できます

下は昨年6月に行われた開発者カンファレンスWWDCのキーノートのオープニングです。一昨年は観客が誰もいないSteve Jobs Therter、昨年は観客席をミー文字のキャラクターが埋め尽くしていました。

  • WWDC 2021のステージに登場するティム・クック氏

今年はWWDCが3年ぶりのリアルイベントになって、世界中から集まった開発者や報道関係者が観客席に座るのではないかと期待されていましたが、残念ながらオミクロン株の感染拡大で不透明な状況に戻っています。Appleはオンラインでもリアルイベントに劣らない充実したWWDCを提供していたので、オンラインであることに問題はありません。でも、リアルイベント期間中の盛り上がりを恋しくも感じます。

このミー文字キャラの演出には、将来のAppleイベントという見方もあります。今までAppleのリアルイベントのスペシャルイベントやキーノートには、多い時でも4,000人ぐらいしか観客席に座れませんでした。でも、AR/VRデバイスがあったら、上の画像のミー文字キャラの1人になり、SharePlayで友達と一緒に参加して、Appleイベントをリアルに体験できるようになるかもしれません。