今後のAppleについて見通す上で、その行方を左右するのがGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に代表される巨大IT企業への規制を進める動きです。

Appleはプライバシーを重んじる企業です。欧米では、多くのユーザーがAppleのプライバシー保護の姿勢を信じ、プライバシーを理由にAppleを選択しています。同社がプライバシーを護る企業であるのは、同社の事業戦略の基盤と呼べるものです。ところが、巨大ITに対する規制によって、プライバシーを保護する力が損なわれそうになっています。

ユーザーのプライバシーや安全のために、AppleはiOS/iPadOSのアプリの配信をApp Storeに限定しています。しかし、これは開発者が必ずApp Storeを利用しなければならないことを意味し、そしてAppleはApp Storeから大きな利益を上げています。他のアプリストアより高い手数料率、外部のストアへの誘導の制限といった手数料回避を困難にする仕組みなどが問題視され、巨大IT企業の規制を進める動きにおいて、App Storeにおけるユーザーの安全のための管理が不当な囲い込みではないかという追求を受けています。

Appleユーザーとしては、規制の影響がAppleのプライバシー保護やセキュリティに及ぶのは避けたい事態です。

しかし、欧州では2020年12月にデジタル市場法(DMA)というIT大手に対する包括規制案が提案され、昨年11月に議会小委員会で草案が採択されました。DMAは既存の独占禁止法に当てはまらない巨大ITの振る舞いの違法性を追求することを目的としており、Appleにサイドローディングの許可(App Store以外からのアプリのインストールを可能にする)を義務づける内容に解釈できる文言が含まれます。

Appleがサイドローディングを認めたら、アプリストアを選択できる自由をユーザーが得られますが、それで深刻なマルウェア被害が広がったらスマートフォン市場の瓦解につながりかねません。

  • 昨年11月にリスボンで開催されたWeb Summit 2021でクレイグ・フェデリギ氏(ソフトウェアエンジニアリング担当SVP)が基調講演に登壇、「サイバー犯罪者の最良の友」とサイドローディングを求める動きに警告しました

一方、米国ではEpic GamesがAppleのApp Storeの仕組みを独占的であるとして訴えた裁判の一審判決(2021年9月10日)で、Appleに追い風が吹きました。

判決は、アプリ配信事業が独占にあたるとするEpic側の主張を退け、Appleに対しては他の課金手段の利用を排除するような手法の見直しを命じたのみ。しかも、イボンヌ・ゴンザレス・ロジャーズ判事が「success is not illegal(成功は違法ではない)」という文言を加えました。これがAppleにとって大きな成果といえます。

昨年1月にトランプ前大統領の支持者による米連邦議会の議事堂の占拠が起き、フェイクニュースに対する危機感から米国でGAFA規制への国民の支持が強まっています。この巨大IT企業規制の議論では、Appleも「GAFA」でひとくくりにされています。しかし、同社は個人情報から収益を得ていません。それどころか、プライバシーに関してFacebookやGoogleと対立しています。そんなAppleについてロジャース判事が「成功は違法ではない」と判断したのは、フェイクニュース問題が大きな論点になっているGAFA規制の議論で他のIT企業との一線になります。

とはいえ、EpicとAppleの裁判は控訴され、巨大IT企業規制の行方は予断を許さない状況です。

プライバシーは後述するWeb 3.0やAR/VRの普及のカギになります。Appleはそれを加速させてくれる存在です。だから、Appleにはプライバシーを最優先し、それを徹底する施策に集中してほしいのですが、ストアモデルの抜本的な見直しには消極的です。そうした姿勢に、Appleを支持する人達からも懸念の声が上がっており、Appleウオッチャーで知られるジョン・グルーバー氏はその点を「利益相反である」と指摘し、改革を求めています。