◆消費電力測定(グラフ68~75)
ということで恒例の消費電力測定。今回はSandra 20/20のDhrystone/Whetstone(グラフ68)、CineBench All CPU(グラフ69)、CineBench One CPU(グラフ70)、TMPGEnc Video Mastering Works 7(グラフ71)、3DMark FireStrike Demo(グラフ72)、それとMetro Exodusの2K(グラフ73)の6つを測定した。
意外にも、例えばSandraの消費電力を見ると、Core i9-11900KはCore i9-10900Kよりも低かったりするのだが、その一方でCineBenchのAll CPUだと80W以上も上回る結果になっていたりするので、一概に低くなったとも言いにくい。もっと極端なのがTMPGEnc Video Mastering Works 7の結果で、Core i9-10900K比で70W近く消費電力が増えた事そのものよりも、結果としてのシステム全体の消費電力がピークで450W、安定後も390W近い事である。GPUをフル稼働させれば勿論500Wの大台を超える訳だが、CPUのトランスコードで390Wというのは、CPUだけで常時300W近く消費している計算になる。
これに比べるとGPU系のワークロードは、絶対的な消費電力は500W前後に達するものの、CPUの差は少ない。まぁ大半がGeForce RTX 3080の消費電力だからだ。
それぞれのテストの平均値をまとめたのがグラフ74、ここから待機時の消費電力を引いた平均値の差がグラフ75であるが、かなりRocket Lakeの消費電力が高い、というのが正直な感想である。
実際これは数字からも明確である。今回結果は示さないが、SandraのDhrystone/Whetstoneのスコアと消費電力、それと効率(GIPS/W及びGFLOPS/W)をまとめたのが表2である。効率で言えば明らかにRocket Lakeの2製品が悪くなっているのが判るかと思う。
■表2 | |||
---|---|---|---|
Dhrystone | Score(GIPS) | 実効消費電力差(W) | 効率(GIPS/W) |
Ryzen 5 5600X | 322.89 | 93.4 | 3.46 |
Ryzen 7 5800X | 441.73 | 147.5 | 2.99 |
Core i5-11600K | 383.00 | 137.3 | 2.79 |
Core i9-10900K | 616.10 | 223.5 | 2.76 |
Core i9-11900K | 527.75 | 212.3 | 2.49 |
Whetstone | Score(GFLOPS) | 実効消費電力差(W) | 効率(GFLOPS/W) |
Ryzen 5 5600X | 210.77 | 89.9 | 2.34 |
Ryzen 7 5800X | 283.61 | 136.7 | 2.07 |
Core i5-11600K | 193.50 | 110.6 | 1.75 |
Core i9-10900K | 324.00 | 169.9 | 1.91 |
Core i9-11900K | 270.29 | 169.2 | 1.60 |
もう一つ、表3はCineBenchのAll CPUの消費電力と経過時間をまとめたもので、要するにCG1枚をレンダリングするのにどれだけの電力量が必要かをまとめたもの(つまり小さいほど優秀)、Rocket Lakeはどちらも11000W・secを超える電力量を必要としており、効率はかなり悪い事になる。
■表3 | |||
---|---|---|---|
実効消費電力差(W) | 所要時間(sec) | 電力量(W・sec) | |
Ryzen 5 5600X | 100.0 | 71 | 7100.0 |
Ryzen 7 5800X | 166.4 | 50 | 8320.0 |
Core i5-11600K | 232.9 | 49 | 11412.1 |
Core i9-10900K | 149.1 | 69 | 10287.9 |
Core i9-11900K | 224.6 | 50 | 11230.0 |
実を言うと筆者は、これを今回のテスト中に体感でも認識した。今回Ryzen 2製品とCore i9-10900K、それとCore i5-11600Kはラジエター120mm幅の簡易水冷クーラー(Silverstone TD03-RGB)で問題なく動作したのだが、Core i9-11900KだとSandraとかCineBench、TMPGEncなど「CPUに高負荷を掛けるベンチマーク」が軒並み失敗(いきなりリブート)しており、電源やらなにやら環境を色々変えて、結局最後にCPUクーラーをラジエター360mmのもの(DEEP COOL GAMMAXX L360 v2)に入れ替えてやっと正常にベンチマークが完走する様になった。要するに既存のTDP 125W対応のクーラーでは、環境によってはRocket Lakeの性能を引き出しきれない可能性もあるということだ。
実際グラフ75でTMPGEncのPeakだと370W、Sustainedでも318.6Wという数字になっている。これは待機時との消費電力の差であって、勿論メモリとか多少はStorageも動いてはいるが、大半はCPUの分だけである。確かにCore i9-11900KはPL2こそ250Wなのかもしれないが、実際にはその上のPL3とかPL4のレンジまで引き上げて動作していると考えるのが妥当なのだろうし、なるほどマザーボードのVRMが17フェーズと大規模なのも納得である。
◆ABTその1:PCMark 10(グラフ76~81)
さて、冒頭Photo25のあたりで、ABT(Adaptive Boost Technology)という新機能についてちょっとだけ触れた。まず、これは何か? という話である。
図1は現在のIntelのTurbo Boostの機能をまとめたものだ。CPU毎に定格動作周波数は決まっているが、これとは別に熱及び電力的にゆとりがあれば、その間動作周波数を定格より引き上げる事ができる。これがTurbo Boost 2.0である。このTurbo Boost 2.0は同時に稼働するコアの数によって上限が決まっており、2コアまでなら一番上まで行けるのが、4/6/8/...と稼働するコアが増えるとその分Boostで持ち上げられる周波数も下がる仕組みになっていた。このTurbo Boost 2.0に後追いで追加されたのがTurbo Boost 3.0 Maxで、
- 全コアが稼働中であっても、特定の2コアだけはTurbo Boost 2.0の最大周波数で動作する。
- 更にそのうちの1コアは、Turbo Boost 2.0の最大周波数を超える事が出来る。
というものになっていた。
そして第10世代CoreではThermal Velocity Boostが追加された。こちらはコアの温度が特定の範囲にある場合、更にBoostの周波数を引き上げるというもので、Core i9-10980HKの場合だと、65℃未満で+200MHz、65℃~85℃で+100MHzのアップが可能になっていた。
このTurbo Boost 3.0 MaxとThermal Velocity Boostは、どちらも特定の1~2コアを対象に動作周波数を引き上げるものであるが、今回追加されたABTは「全コアをTurbo Boos t 2.0の最大周波数まで引き上げる」というものである(図2)。
2019年10月に、全コアを5GHz動作させるというCore i9-9900KSが発売されたが、あれを地で行くわけだ。もっともABTを有効にすると、常に全コアがTurbo Boost 2.0の最大動作周波数(5.1GHz)に張り付くかどうかはまだ不明である。多分こちらも温度とか消費電力などの縛りはあると思うのだが。
さて、これの有効無効はBIOSで設定することになる。今回対象となるのはCore i9-11900Kのみなので、これを相手にいくつか確認してみた。まずはPCMark 10である。
まぁもう結果を見て頂くと判るが、性能が上がらないというか、むしろ落ちている。まだABTの有効な条件がはっきり判らないので断言はできないのだが、恐らくは「ABT有効にして動作周波数が上がる→コア温度が急上昇→Thermal Throttlingが掛かって動作周波数下がる」を繰り返している気がする。実際殆どのケースで性能が変わらない(か、上がってもごくわずか)で、目に見えて変わっているのはGaming(つまり3DMark FireStrikeのPhysics Test)のみ。SpreadsheetとかWritingではむしろ性能が悪化している。Office Applicationでも、ExcelとかPowerPointでは結構大きく性能が下がっており、どのように効果を得ればよいのか今回の場合はわからなかった。
◆ABTその2:CineBench R23(グラフ82~85)
では全コアに負荷をかけるCineBenchは? というと、All CPUの場合に15456→15715だから、一応上がってはいるが、なぜか影響ない筈のOne CPUの場合のスコアが落ちているという謎の振る舞いになってしまった。
加えて言えば、ABTを有効にしたことで消費電力は相当上がっている。All CPU(グラフ83)では80W近く、One CPU(グラフ84)でも10W近く上昇している。グラフ85が平均値をまとめたものだが、待機時の消費電力も10W以上増えており、得られる性能に比して増える消費電力が過大、というのが現時点での筆者の見解である。
もっと冷却能力の高いCPUクーラーを持ってくればABTでもっと効果的に性能が上がるかもしれず、例えばこんなモノ(*1)もあるが、これはさすがに一般家庭向けとは言い難い環境になりそうに思う。
(*1) 例えばIntelが2018年のCOMPUTEXの基調講演で公開した全コア5GHz動作のXeon Wプロトタイプの場合、テーブルの下に1KWの水冷チラーが隠れており、これで冷却していたことが判っている。「逸般家庭」向けソリューションというべきか。