VAIO Zを象徴する要素のひとつがパフォーマンスだ。

今回のVAIO Zでは、第11世代Intel CoreシリーズのHプロセッサラインを搭載。第10世代のCore i7を搭載したVAIO SX14に比べて、CPUパワーで1.8倍、GPUパワーで1.6倍もの性能を発揮する。

インテルが、大型クリエイティブノート用高性能プロセッサとして開発したHプロセッサが、1kg以下のノートPCに搭載されるのはVAIO Zだけだ。

  • 新しいVAIO Z(Intel Core i7-11375H搭載モデル)で見た「CPU-Z」の表示。CPU-ZはCPUのハードウェア情報を表示するソフト。Code Name部分はTiger Lake-Uとなっているが、Max TDPは35Wとなっており、正しくはTiger Lake-Hと思われる

TDP28W対応の予定が一転、TDP35W対応に

VAIO PC事業本部エンジニアリング統括部システム設計課の板倉功周エレクトリカルリーダーは、「当初は、Tiger LakeのUP3(TDP28W)への対応を前提として設計をしていた。だが、インテルとの戦略的関係をもとに話を進めていたところ、インテルからHプロセッサ搭載の提案があった。ぜひ、新たなVAIO Zに採用したいと考え、インテルのサポートを得ながら開発を進めた」とする。

Hプロセッサラインでは、UP3パッケージを拡張することで、TDP35Wまでの熱設計に対応するが、「電源まわりや放熱設計は、高いパフォーマンスを実現することを前提としていたため、途中から設計変更せずに済んだ。いまから振り返ると、Hプロセッサのために設計していた放熱設計だったともいえる」と笑う。

  • VAIO PC事業本部エンジニアリング統括部システム設計課の板倉功周エレクトリカルリーダー

さらに、VAIO Zのパフォーマンスの高さを決定的にするのが、VAIO TruePerformanceである。VAIO TruePerformanceは、電源強化や放熱能力の向上によって、プロセッサの持つ高いパフォーマンスを持続的に発揮できるVAIO独自の技術だ。

今回のVAIO Zに搭載したVAIO TruePerformanceは、電力量をもとに制御していた従来の仕組みから、温度によって制御する方法へと変更。温度が許す限り、パフォーマンスを出し続けることができるように設計されている。

そして、TDP35Wのクーリングシステムを実装するとともに、VAIO TruePerformanceで継続的なパフォーマンスを引き出すため、大型化したヒートパイプとデュアルファンを搭載。「新たなVAIO TruePerformanceの仕組みに耐えられる熱設計を採用した。ターボ時間は、これまでとは比較にならないほど伸びている」という。

  • 新しいVAIO Zの内部。Hプロセッサの搭載にあわせ、冷却システムも従来から強化した。デュアルファンは日本電産と共同開発したもので、基本的には2つ同じものを搭載している

デュアルファンは日本電産と共同開発し、低騒音化するため軸受に流体動圧軸受を採用。ファンの羽根は不等配ピッチの採用と最適化により、同等サイズのファンと比較して、低騒音化を図りながら約30%の風量アップを達成したという。

「ファンを3個、4個搭載することも考えた。さらに低騒音になったり、冷却効率を高めたりできるからだ。だが、軽量化や、バッテリーサイズを確保する観点から、最終的にデュアルファンの採用に落ち着いた」(板倉功周エレクトリカルリーダー)

  • 上がVAIO ZのCore i7-11375Hモデルで採用するヒートパイプ、下がCore i5-11300Hモデルで採用するヒートパイプ。Core i7モデルでは幅広のヒートパイプが使われている

  • 裁断されたVAIO Zの試作機

  • 横から見た断面図

最大34時間。長時間バッテリー駆動の意味

ストレージには、シーケンシャルリードで6GB/sを超える第4世代ハイスピードSSD(PCIe Gen.4)を採用。最大2TBまでを選択できるようにしたほか、広帯域メモリー規格「LPDDR4X」を採用したメインメモリーを、最大32GBまで搭載可能にした。これもVAIO Zで高いパフォーマンスを実現することにつながっている。

さらに、次世代通信規格5G対応無線WANが選択可能だ。VAIO独自のアンテナ設計により、2本のWi-Fiアンテナと、4×4のWWANアンテナ配置設計によって、MU-MIMOの効果を最大化。4×4アンテナの性能をフルに引き出すため、個々のアンテナの距離を可能な限り離して配置したことで、4本それぞれのアンテナと基地局のアンテナとの間に位相差が生まれ、最大のスループット性能を出すことができるという。

  • 2本のWi-Fiアンテナと2本のWANアンテナはベゼル部に内蔵。残りの2本のWANアンテナはボトムカバー左右側面に1つずつ配置されている

「5Gアンテナの位置にはこだわってきた。ボトムカバー側に配置したアンテナは、設計初期段階からシステムノイズを受けない対策を優先した。VAIO Zでは、使用時にキーボード奥部が持ち上がるチルトアップヒンジ構造を採用しており、これも金属机の影響を受けにくいメリットにつながっている」(板倉エレクトリカルリーダー)

そして、これだけのパフォーマンスを実現しながら、最大で約34時間のバッテリー駆動というスタミナぶりも、新しいVAIO Zの特徴だ。VAIO史上最長となるこの駆動時間は、むしろ、そこまで必要なのかという気にもさせる。

だが、板倉エレクトリカルリーダーは、「実使用環境で、丸一日、外を持ち歩く場合、ACアダプターを携行せずに、安心して利用するには、カタログスペック上では30時間の駆動時間が必要だと考えていた」という。

VAIO Zでは、専用の高容量、薄型軽量の53Whのバッテリーを新開発したことによって、当初の30時間という目標を上回る約34時間のスタミナ駆動を実現(フルHDモデル時)。4Kモデルでも、最大約17時間の駆動を実現した。

モダンスタンバイにも対応しており、スリープ状態から瞬時に復帰。スリープ中も最大限の省電力化が行われており、長時間に渡る移動の際にも、バッテリー残量を気にせずに利用できるという。使いたいときに確実に、最高のパフォーマンスを発揮するためのこだわりのひとつだ。

こうした回路設計やメカ設計では、着実にブレークスルーが行われ、VAIO Zの称号に相応しいパフォーマンスを実現する環境が整いつつあった。

だが、開発チームのなかには、なぜか、閉塞感や物足りなさが支配していた。