自分にとってデザインの学校は"レコード屋さん"

――菅谷さんは、リアルタイムでTHE BLUE HEARTSも聴けた世代ですよね。

菅谷:それが、僕は全く聴いてこなかったんですよ。本当に洋楽ばかり聴いていたので。当時、僕が音楽を聴き始めたときは、RUN DMC とエアロスミスの「Walk This Way」がちょうど出てきた頃で。僕はロックに行って、そこからブルースに行って。掘り下げていくのが好きなんで。原始的な音楽に行ったりとかもう1回上がってきて今の洋楽を聴いたりとか。だから、邦楽を通ったことがなかったので、知っていたのは有名な数ある曲の中のほんのちょっとだけで、邦楽を聴くようになったのはお仕事をするようになってからですね。

  • 菅谷晋一さん

――でも、エアロスミスから掘り下げてブルースのロバート・ジョンソンとかまで行くと、そこでヒロトさんたちと繋がりますよね。

菅谷:そうなんですよ(笑)。だから今も共通言語として、「あのジャケット」とかいうことはすぐにわかります。

――映画の中では、曲を聴いてイメージしたものを作っていっていますが、最初からそういうやり方だったんですか。

菅谷:例えば『Do!! The★MUSTANG』は、「面白そうな馬がいたら撮ってきて」というお題があったんです(笑)。なのでこれはもう僕のアイディアとは言い難いんですけど、この後からは、タイトルと曲をいただいて、「自由にやってみて」というところから始まりました。

――「いくつか作ってみて」ということじゃなくて、毎回1つの作品で一発OKというところがすごいなと。

菅谷:もしかしたら「いくつか作ってくる」と思ってたかもしれないですけど(笑)、僕の中ではそれしか頭になかったんで、1個しか持って行かなかったというか。

  • アトリエでの仕事風景。映画『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』より

――ザ・クロマニヨンズのシングル「クレーンゲーム」のジャケットの製作工程が映画に出て来ますが、ジャケットの依頼から納品までどのくらいの期間があるんですか。

菅谷:1ヶ月ぐらいかなあ。長いときは、3ヶ月ぐらいのときもあるんですけど、僕が作り上げる期間というのを、依頼側もわかってきているので。CDとかレコードは音を録ってから宣伝とかもあるので、それを考えるとどの仕事も1ヶ月ぐらいは作る期間はあると思います。

――並行して他の制作をされているときもあると思うんですが、それは納期ごとに優先順位をつけているのでしょうか?

菅谷:納期もありますし、あとはモノを先に作っておいて乾かすとか。

――作っておいて乾かす、というあたりがそもそもジャケット制作のイメージと違うところなんですが(笑)、PC上でデザインするということもあるわけですか。

菅谷:もちろん、グラフィックデザインをコンピューターで作ることもできるんですけど、自分が感動してきたジャケットって、そういう仕事じゃなかったんですよね。コンピューターもなかったですし、どんなに細かい絵でも手で描いてたし。だからやっぱり、自分がデザイナーの立場になって人に感動してもらえるのであれば、手を使うのが理想かなっていうのが自分の中であるんです。あと、僕はその方が慣れてるし早いんですよね。

  • レコード屋さんにて。映画『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』より

――そういうことも学校で習ったわけではなくてすべて独学でやっているんですよね。

菅谷:そうですね。僕が思春期だった頃のレコード屋さんに行けば、そこがデザイン学校みたいなものだったので。「ああ、こういう風に見せるのか」とか、「こういう音楽にはこういうのが合うよな」って、見て覚えたんです。